下道千晶さんとパートナーの龍一さん、長男のふうた君。生まれたばかりのころから、親子3人で畑に通う
下道千晶さんとパートナーの龍一さん、長男のふうた君。生まれたばかりのころから、親子3人で畑に通う

 コロナ下でテレワークが普及し、移住を考える人や、実際に移住する人が増加したことは周知の事実だ。NPO法人「ふるさと回帰支援センター」(東京・有楽町)によれば、2021年の移住相談件数(面談・電話・メール・見学・セミナー参加)は、前年比で約29%増の4万9514件。これまで最多だった2019年の4万9401件をわずかだが上回り、過去最高の相談件数を更新した。

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 だが、憧れだけで移住はできない。なぜ移住したいのか。移住先ではどんな暮らしがしたいのか。そこをはっきりさせることが、移住成功への第一歩だ。具体的なイメージを固めるために、「理想の移住」を実現させた3組のケースを紹介したい。

 最初に紹介するのは、千葉県の都市部から内房エリアに移住し、自分たちの暮らしをていねいに紡ぐ下道千晶さんとパートナーの龍一さん。二人の移住のキーワードは“農業”と“子育て”だった。

 千葉県内房エリアは、海と里山に囲まれた豊かな自然がある一方、新しい商業施設も続々オープンし、暮らしやすさがアップ。近年移住地としての人気が急上昇している。ともに都市部で育った二人は、20代で運命的な出会いを果たした。

 千晶さんは大学生のときにモデルデビュー。ファッションそのものが好きだったことから、卒業後はアパレル会社に就職し、モデルとデザイナーという二足のわらじをはき、多忙な毎日を送っていた。

「でも、最先端ファッションを追いかける生活は目まぐるしくて、だんだん疲弊してしまって。体調も崩し、自分の生き方を考えるようになりました。誰かの決めた価値を追いかけるよりも、自分がいいと思うものを選べるような生き方がしたいなあと」

 そのとき彼女の頭をよぎったのは、山形の祖母の暮らしだった。農家を営む祖母の家は昔ながらの民家で、遊びに行くと、軽トラックに乗って畑に野菜を採りにいき、それを食べるなど、自然のサイクルに沿った生活が楽しめた。いつかあんな暮らしがしたいと思い始めていたころ、とあるコミュニティーカフェで出会ったのが龍一さんだった。カフェを運営しつつ、街おこしとオーガニック野菜づくりをする龍一さんと話をするうち、考え方の方向性が同じだと気づいたという。

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