国立がん研究センター中央病院呼吸器外科長 渡辺俊一(わたなべ・しゅんいち)医師。2002年に同院に着任。15年から現職を務める(撮影/写真部・高野楓菜)
国立がん研究センター中央病院呼吸器外科長 渡辺俊一(わたなべ・しゅんいち)医師。2002年に同院に着任。15年から現職を務める(撮影/写真部・高野楓菜)

 週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院』創刊以来20年にわたって、肺がん手術の手術数ランキング1位であり続けている国立がん研究センター中央病院。同院呼吸器外科を率いる渡辺俊一医師は、トップを維持できる理由を「地域の病院やクリニックからの信頼があってこそ」と言います。好評発売中の週刊朝日ムック『手術数でわかるいい病院2022』の創刊20年特別企画では渡辺医師が経験したこの20年と、これから目指すものを語っていただきました。一部抜粋してお届けします。

【ランキング】肺がん手術数トップ40(全2ページ)

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■肺がん治療のあり方は劇的に進化を遂げた

  2002年に当院に赴任して、以来20年間の外科領域におけるトピックといえば、やはり胸腔鏡や腹腔鏡などのデバイス(手術器具)の進歩です。肺がんの手術はさまざまなアプローチ方法があり、現在当院では「ハイブリッドVATS」という、5~6センチの小さな開胸と胸腔鏡を併用する術式でおこなっています。昔の開胸手術と比べると傷の大きさは8分の1程度です。患者さんの負担が少なく早期退院できる低侵襲性と同時に、リンパ節郭清をしっかりできることによる、がんの「根治性」と「安全性」を担保できます。

 かつては「コンプリートVATS(完全鏡視下手術。傷は胸腔鏡用に開ける穴3~4カ所のみ)」をやっていましたが、胸腔鏡だけでは緻密な手術がうまくできないことがわかりました。当科の生存率が高いのは、根治を目指してしっかりリンパ節を郭清しているからで、それを堅持できる術式を用いています。

 近年の肺がん手術のトピックは「区域切除」です。右肺に三つ、左肺に二つある「肺葉」のなかで肺がんのある区域のみを切除するという手術です。私が代表を務める「JCOG(日本臨床腫瘍研究グループ)」の肺がん外科グループは、2センチ以下のがんで、標準治療である「肺葉切除」と区域切除の比較試験をおこないました。その結果、局所再発は区域切除のほうが多かったものの、全生存期間は区域切除のほうが優れていることが示されました。

 肺は再生しない臓器なので、手術で切り取る範囲が広ければ、それだけ機能は落ちてしまいます。だから残せる人は残したほうがいいのです。肺がんは一度完治しても、10人に1人くらいが2回目の新しい肺がんにかかります。縮小手術をしておけば、肺機能が温存され、再手術が可能になります。もちろん再発を防ぐことが最も重要ですから、すぐに肺葉切除が区域切除に置き換わるかどうかはわかりませんが、将来的には有望な選択肢です。 

 薬物療法は飛躍的に進化しました。私が医師になったころは、肺がんは薬では全く治りませんでしたが、分子標的薬と免疫チェックポイント阻害薬で劇的に変わりました。それまでは、IV期の肺がんの余命は1年以内でしたが、現在では余命が数年あるいはそれ以上に延び、なかにはがんが消失するケースも増えてきました。

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放射線治療も進化し、手術に肉薄