(C)2020 Piraya Film I AS & Wingman Media ApS
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 国際社会が経済制裁を科す裏で、今も武器取引で外貨を稼ぎ続けている北朝鮮。その実態を赤裸々に撮影したドキュメンタリー映画「THE MOLE(ザ・モール)」が10月15日に公開される。「モール」とはモグラのことで、「潜入スパイ」を意味する隠語だ。自らの意思で10年もの間、北朝鮮の武器取引ネットワークに潜り込み、その実態を撮り続けてきた男、ウルリク・ラーセンさん(45)に話を聞くことができた。

【写真】北朝鮮側の“キーマン”と握手するウルリクさんの姿はこちら

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 映画は平凡なデンマークの料理人だったウルリクさんが北朝鮮関連団体に潜入し、平壌で朝鮮親善協会の会長のスペイン人・アレハンドロと出会うところから始まる。実は、このスペイン人、「親善団体」を隠れみのにした武器取引の仲介人なのだ。ウルリクさんは投資家「ミスター・ジェームズ」を装った役者と手を組んで、アレハンドロに巧みに接近。武器取引の話を引き出していく。アレハンドロを信用させて北朝鮮との契約を成立させた後は、武器工場を建設するためにアフリカのウガンダまで飛んで、政府要人と交渉。島ごと買収しようと計画する、という規格外のドキュメンタリーだ。

 周知のとおり、北朝鮮は極端な秘密主義国家で、その実像は闇につつまれている。ましてや、武器取引の実態などは、まったくうかがい知ることはできなかった。

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 ところが、驚くべきことにこの映画はその様子を詳細に写し出す。あまりの鮮明さに、最初は「これはヤラセではないか?」と疑ったほどだ。

 当然のことながら、撮影は極めて危険な行為で、バレれば即、命の危険にさらされる。

■東ドイツで実感した人々の恐怖

 そこまでの危険をおかして、なぜ北朝鮮に潜入する“スパイ”となったのか。

 ウルリクさんは冷戦時代、東ドイツを訪れたときの思い出を語り始めた。

「私の父親はフェリーの監督で、デンマークと東ドイツの間を行き来していた。私はときどき父親についていった。12歳のころ、東ドイツの少年と手紙を交わす仲になり、遊びに訪れるようになると、人々の間にはびこる暗い影を感じるようになっていった」

 それをはっきりと感じたのは対西ドイツ戦のサッカーの試合を見ていたときだった。

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バレた! もう終わりだ