葛飾区立石にある熊野神社
葛飾区立石にある熊野神社

●伝説その1・母は白狐

「葛の葉」伝説とは、和泉国・信太(しだ)の森で傷ついた白狐を助けた男の元に葛の葉という女性がやってきて、やがて夫婦となり子をもうけるのだが、実はこの女性が白狐だった、というものである。この時生まれた子が安倍晴明、つまり晴明は人間と狐のハーフという言い伝えとなっている。

 現在も信太の森には、白狐の姿を映したといわれる鏡池が残り、父と母が出会ったとされる信太森神社(葛葉稲荷神社)は、今も同じ場所に鎮座している。もちろんこの社は縁結びのご利益で有名である。

 余談だが、関西では狐の好物と言われる油揚のことを「信太(しのだ)」と言う。たとえば、きつねうどんは信太うどん、いなりずしは信太ずし、おでんだねなどにも使われる信太巻は油揚で食材を巻いたもの、などだが、この名は「葛の葉伝説」に所以があるのだとか。

●伝説その2・閻魔大王の代理

 安倍晴明は、死者を蘇らせる陰陽師の秘術「泰山府君(たいざんふくん)の祭」を得意としたと言われているが、この話につながる逸話が、京都の真如堂(真正極楽寺)に残っている。

晴明は、不慮の死により地獄の閻魔大王の前に引き出されたが、この時、念持仏であった不動明王が命乞いをした。閻魔大王は「生き死にを決定する私の秘印を授けるので、これから娑婆へ帰り、この印を使って諸人を導きなさい」と言い晴明をこの世へ返したとか。泰山府君は閻魔大王の眷属(部下)の一人とされていて、上記の逸話はまさに晴明自身が閻魔大王の代わりに働いていたとも取れる話である。

 真如堂にはこの印が今も伝わり、印紋は復活の護符として授与されている。

●晴明と花山天皇と

 この他、「今昔物語」や「宇治拾遺物語」「大鏡」などの書物に晴明の超人的な逸話がいくつも残されているが、呪詛された人を助けるものが多い。前世がともに熊野で修行をする行者だったということで親しくしていた花山天皇との話の中には、この前世話も登場する。頭痛に悩まされる天皇の話を聞いた晴明は、「前世の行者の髑髏が、山中の岩の間にはまり頭を締め付けている」と答えた。言われた場所でみつけた髑髏を岩から外したところ、頭痛が治ったという。

 ほかにも晴明伝説は、熊野一帯に多く残っている。

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