現役時代に記憶に残る「秒殺試合」を披露した北斗晶 (c)朝日新聞社
現役時代に記憶に残る「秒殺試合」を披露した北斗晶 (c)朝日新聞社

 試合開始から秒単位で決着がつくのはMMA(総合格闘技)の世界だけの話ではない。

 プロレスでも信じられないような秒殺試合がいくつも存在する。

 プロレスでは対戦相手とともにお客さんとの戦いも求められる。驚異的な強さで対戦相手を圧倒しても試合内容が乏しければ「ショッパイ」(=つまらない、盛り上がらない)という判断をされてしまう。結果として大技の応酬になり試合時間が長くなってしまう傾向もある。

 一方、MMAやボクシングなどの格闘技においては秒殺試合が日常的ですらある。例えば2019年7月6日、UFC239(米国ラスベガス)ではホルヘ・マスビダル(米国)がベン・アスクレン(米国)を試合開始5秒、右飛び膝蹴りで失神KOしている。この試合は「UFC史上に残るKO」とファンの間では盛り上がりをみせた。

 プロレスとMMAでは求められているものが異なる。そう思われているプロレス界に秒殺の概念を持ち込んだのは専門メディアの週刊プロレス。1993年9月21日のパンクラス旗揚げ戦(東京ベイNKホール)を秒殺という言葉で報じた。全5試合合計で13分5秒という興行を最大級の言葉で讃え、秒殺はプロレス界でも日常的な言葉となった。

 しかしパンクラス発足以前にも秒殺試合は存在しており、突然現れた新種のプロレスではない。また近年でも劇的で時には笑えるような結末の秒殺試合が行われることは多々ある。今回はファンの間で語り継がれる秒殺での名勝負をいくつか挙げてみたい。

●1985年3月8日:全日本/ザ・ロード・ウォリアーズvsアニマル浜口&キラー・カーン(千葉・船橋運動公園体育館)

 日本マット界に秒殺を広く浸透させたのはアニマル&ホークのザ・ロード・ウォリアーズが最初だろう。

 来日初試合から日本のプロレスファンに衝撃を与えた。入場曲とともにリングになだれ込み対戦する2人をリング下へ蹴散らす。ゴングがなるとパンチ、エルボーなどの打撃、ショルダーバスター、リフトアップ、パワースラム 。そして合体技のラリアットで3分39秒(219秒)、ホークが浜口からフォールを奪った。

「俺たち殺人軍団の試合を見るのは初めてのはずだぜ。これは冗談でもなんでもない。俺たちほど強いチームは、この世で最初で最後になると約束してやる」(ポール・エラリング/ウォリアーズ専属マネージャー)

 米国マットでの暴れっぷりは来日前から注目度抜群。当時では試合時間もかなり短く、圧倒的なインパクトの強さを見せたいう意味で秒殺の第一人者と呼べるのではないだろうか。

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信じられない秒殺試合の数々