これらの質問に対しても菅首相のピントはずれていた。

「開催するにあたりIOCに対して18万人くらい、選手や関係者が日本に来る予定でしたが、それを3分の1にお願いさせていただいた」

「(オリンピックの)視聴率は非常に高いようで、ご自宅でご覧になっている方がたぶんたくさんいらっしゃるのだろう」

「それとこの大会を無観客にして開催をさせていただきました。そうした点から私が申し上げたところです」
 
 人流が減ったと反論したつもりなのかもしれないが、記者が聞きたいことにはまったく答えていないのは明らかだろう。

 最後にイギリスの週刊誌「ジェーンズ・ディフェンス・ウィークリー」(JDW)から、「デルタ株を見くびっていたことが感染爆発の背景にあるのではないか」、「もし感染の波を止められず、医療崩壊して、救うべき命が救えなかったとき、首相を辞職する覚悟はあるか」と付きつけられた。会場には緊張感が走った。

 しかし、菅首相は「水際対策をきちっとやっています」と強弁し、辞職の覚悟については発言しなかった。

 小野報道官が会見を打ち切ろうとしたが、JDW記者が再び「辞職の覚悟について教えてください」と尋ねると、菅首相は不機嫌そうにこう答えた。

「しっかりと対応することが私の責任で、私はできると思っています」

 SNS上には「ズレにズレた記者会見」「この首相で大丈夫か」「できていないから感染爆発してるんだろ」などと批判的なコメントで溢れた。記者からの質問に正面から向き合えない菅首相に、果たしてこの局面を乗り越えることができるか。改めて考えさせられた記者会見だった。

(AERAdot.編集部 吉埼洋夫)

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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