食卓に並べられた冷め切った手料理からは寂しさを感じるし、冷め切った料理を口に運ぶ人の姿は物悲しい。

 学生の頃、母に作ってもらったお弁当をともだちに見られるのがちょっと恥ずかしかったのは、母が自分にかけてくれる愛情を覗かれるようで恥ずかしかったのかもなと今になって思う。

 母になるということは、まったく別の角度から「食」に向き合う生活が始まるということだ。

 それは改めて自分の「食」の原点を知る旅だ。

 離乳食を両手に塗りたくり、うどんを頭からかぶり、味噌汁を母の顔に吹きかける。

 子供の頃は、食べるだけじゃない、多様な食との関わり方をするものだと驚かされる。斜め上を行く多様さに舌を巻く。

 栄養のことを考えて一生懸命作ったスープが不味すぎて一口飲んだ子供が食卓から逃げ出しソファーにしがみついて号泣する。

 そんなシーンを描いた映画はあるだろうか。

 その時、私はどんな顔をしていたろうか。

 子供はほんとうに、無邪気に一点の曇りもない顔で言う。

「おいしくない」

 と。そこには母を責める意図はみじんもない。

 ただ美味しくないと思ったから言う。真っ直ぐな目で言う。

 そんな時、世界中の母たちはどんな顔をしているのだろうか。

 今も目の前で我が子は、私の作った甘口のカレーを何口か食べたと思ったら

「からい、あわ、あわ、みず、みず、」

 とあわてて水を口に含んで、

「みず、みず、みずのみぎーー」

 と私の芸名をよぶ。

 私はなんともいえない顔をしているだろう。

 これからもまだまだ、子供の斬新な「食」との向き合い方を発見し続けるのだろう。

 完食して空っぽになったお弁当箱が返ってくる時の嬉しさを、母は最近、知りました。

 生まれて初めての感情でした。

■水野美紀(みずのみき)
俳優。ドラマ・映画・舞台で活躍中。<出演情報>NHK 特撮ドラマ「超速パラヒーロー ガンディーン」が6月26日、日本テレビ系ドラマ「ボクの殺意が恋をした」が7月4日にスタート。レギュラー番組は、フジテレビ系バラエティ「突然ですが占ってもいいですか?」毎週水曜22:00~、読売テレビ「水野美紀の映画生活(シネマライフ)」毎週金曜22:54~<関西ローカル>  http://www.ytv.co.jp/cinemalife/

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水野美紀

水野美紀

水野美紀(みずの・みき)1974年、三重県出身。女優。1987年にデビュー。以後、フジテレビ系ドラマ・映画『踊る大捜査線』シリーズをはじめ、映画、テレビドラマ、CMなど、数多くの作品に出演。最近では、舞台やエッセイの執筆を手掛けるなど、活動の幅を広げている。2016年に結婚、2017年に第一子の出産を発表した

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