例えば、中国は15年に「中国製造2025」を発表した。これは習近平(シーチンピン)指導部が掲げる産業面での強化政策で、25年までに世界の製造強国入りし、45年には製造強国のトップになるとしている。航空宇宙技術、先進的な交通インフラ技術など10分野を重点分野としているが、それに関連した産業が攻撃対象になっているとされる。

 また、名和さんはサイバー攻撃ができる裾野が広がってきていると指摘する。中国では毎年45~50万人ものIT技術者を輩出しており、世界のハッカーが集まりその技術を競う「デフコン」では、中国人チームが上位に多数入るほどになっている。

「中国では厳しい工程管理がなされており、失敗は許されない。当局と契約をしている事業者などから調達仕様書が乱発されているが、中国国内ではなし得ない技術も多い。それがサイバー攻撃につながっている。また、個人によるサイバー攻撃も急増しており、サイバー攻撃の全容が見えにくくなってきているのが、実態です」(名和さん)

 サイバー攻撃は、私たちの生活にも無関係ではない。

 昨年11月にはカプコンが不正アクセス攻撃を受け、最大で約39万人の個人情報が流出したという。米Facebookでも4月、5.3億人分の流出した個人情報がインターネット上で公開される問題などが起こっている。

 こうした個人情報は「ダークウェブ」上で売買されたり、公開されたりすると言われる。ダークウェブとはGoogleなどの検索では引っかからず、専用のブラウザからしかアクセスできないウェブだ。匿名性が高いため、犯罪に利用されやすい。名和さんはこう語る。

「ある企業を攻撃しようとしてできなかった場合、会社の関係者が標的になります。例えば、従業員の家族や清掃員、メンテンナンス業者などです。SNSやダークウェブの個人情報などを徹底的に収集し、それを踏み台に企業に侵入していく。知らず知らずに犯罪に巻き込まれてしまうケースも多い。怪しいメールやウェブサイトは開かない、情報管理に不安のあるアプリは使わないなど基本的な対策が有効です」

 今後、IT化が進み利便性が向上する一方で、情報流出などのリスクも高まるのは間違いない。被害にあわないためにも、日ごろからの注意が必要だ。(AERA dot.編集部/吉崎洋夫)

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吉崎洋夫

吉崎洋夫

1984年生まれ、東京都出身。早稲田大学院社会科学研究科修士課程修了。シンクタンク系のNPO法人を経て『週刊朝日』編集部に。2021年から『AERA dot.』記者として、政治・政策を中心に経済分野、事件・事故、自然災害など幅広いジャンルを取材している。

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