作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、「この国で年をとること」の怖さを感じたある出来事について。
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10年間、ハードに稼働させていたエアコンがついに壊れ、新しいものを購入することになった。ネット通販でエアコン本体を選び、取り付けなどもその際に申し込んだ。エレベーターのついていない低層のマンションのため、工事費などは多少割高になるとのことだったが、それも了承して工事当日を迎えたのだけれど……。
どういうわけか、家電業者の方々とコミュニケーションを取るのが難しくなっている。数年前に冷蔵庫を購入した時もそうだった。廊下につるされている照明にぶつかるので、冷蔵庫を台所まで運べないと運搬業者の若い男性が言うのである。新しい冷蔵庫はそれまでのものよりも小さいし、照明を私が持ち上げるから、その隙に通れば?と提案したり、最終的にはたとえ照明器具が割れても(といっても、そもそも照明器具の傘はガラスではなく布なのだが)文句言わないから!と懇願したりしても、「万が一のことがあっても俺ら、責任取れないので」と、ご本人、かっこよく言い放っているふうな感じで冷蔵庫を持って帰ってしまったのだった。
私は地団駄踏んだ。新しい冷蔵庫で一新されるはずだった私の未来が消えた悔しさもあるが、それ以上に「融通のきかなさ」にショックを受けたのだ。きっとこの会社の従業員は、想像を絶する多種多様なクレームを受けた過去の経験から、絶対に客の家のモノには触れない、何があっても、たとえ泣いて懇願されても脅されても絶対に触れないというルールが徹底されているのだろう。それにしても、おかしいじゃないか。
そう、エアコン取り付け業者も、そんな感じだったのだ。
当日来た業者の男性2人は取り付け場所を見て、まず、ベランダにある植木鉢をどかしてほしいと言う。かなり重たいヤツだ。すみません一緒にやってくれます? と聞くと「お客様のものには触れないんで」と頑なに棒立ちを貫く。まぁ仕方ないわ……と、数十キロの重たい植木を一人でずらすと、今度はエアコン設置には追加で料金がかかると言うのだった。詳細を聞けば、通販時に既にオプションで支払ったものも入っていたのでそう言うと、途端に男性の態度が見るからに硬化した。「俺ら、聞いてないんで。お客様に納得していただけないかぎり、工事できないんで」。納得できないなんて言ってないです、納得したいから確認してほしいんです、と伝えるのだが、既に闘いのゴングが鳴ってしまったかのような変な緊張感が流れてしまっているのだった。