地蔵をつくる金田さんら(提供)
地蔵をつくる金田さんら(提供)

欲たかり地蔵(提供)
欲たかり地蔵(提供)

 東日本大震災から10年。悲しみやつらい現場を多く抱えてきた被災地だが、その中でもほっこりとした、人々のユーモアを感じる場も数多くあった。震災直後から傾聴移動喫茶「カフェ・デ・モンク」を主宰し、被災者の声に耳を傾けてきた宮城県栗原市の通大寺住職・金田諦應さん(64)はそう語る。10年にわたる活動のなかで金田さんが接した「ほっこりとした」エピソード、そして厳しい場でこそ大切な「ユーモア」について話してもらった。

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▼「さみしぐね」ばあちゃん

 震災直後、集会所もまだできていない時期に屋外でカフェを開くと、遠巻きで見ている90歳近いおばあちゃんがいました。「お前たち何やってんだ!こんな津波ぐらいで大げさな、わーわーやって」とおばあちゃん。話を聞くと、満州から引き揚げた後、戦争で空襲に遭い、17年前に夫と死別。津波は3回目で、娘2人は遠くに嫁に行って今は仮設住宅で独り暮らしとのことでした。「さみしぐねが?」と聞くと「さみしぐねっちゃ」。なのにカフェには最初から最後までいて全く帰りません。「時々来るからまた来てね」と声をかけると、「二度と来るな」と言い放ちます。けれどもカフェを開くと必ず来て、隅に座って悪口雑言を言いながらずっとそこにいました。寂しさをいっぱい抱えた「さみしぐね」。愛すべきばあちゃんでした。

▼浜の老女のエロスと慈しみ

 津波で大きな被害を受けた浜を訪れ、「今日はよろしくお願いします」とあいさつをすると、待ち構えていたのは数十人の老女でした。歯が抜けたばあちゃんたちがニンニクのにおいをプンプンさせて下ネタ話で盛り上がり、「いいカモが来た!」と私たちに話を振ってくるのです。「こら和尚、お前の性癖はなんだ」など、具体的な話はとてもできないくらい(苦笑)。話題を変えてもすぐに話を戻され、宗教者をもてあそぶ。きっとこれは震災前からのことで、亭主を漁に出した後、つらい日々の中でそうして笑って生きる力にしてきたのでしょう。

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