一方、公正証書遺言は公証人が作成する公文書なので、証拠力が高く安心だ。原本が公証役場に保管されるので、偽造・紛失の心配もなく、検認も不要。短所といえば、基本的に公証役場に出向かなければいけないこと、立ち会い証人が2人以上必要で、作成費用がかかること、などがあげられる。

三井住友信託銀行のフェロー主管財務コンサルタント・稲里志さんは「遺言書は大事な財産の行方を決める極めて重要な文書。有効なものにするために、公正証書で作成することを強くおすすめします」と話す。
 
■遺言書に魂を入れる付言事項の重要性

 遺言書の作成にあたっては六つの留意点がある。
 
 一つめは、遺言能力があること。認知症などで意思能力がなくなると、遺言は作ることができない。「相続配分はもう少し後で決めたい」と先延ばしせず、現時点で最善と思う内容で早めに作成しておきたい。
 
 二つめは、遺言書は後から書き直せるということ。一度書いても内容を改めたいと思えば、その都度書き直すことが可能だ。
 
 三つめは遺留分への配慮。一定の相続人に認められた最低限の相続分を割り込むような遺言は、トラブルの火種になってしまう。
 
 四つめは「付言事項」を書くこと。法定遺言事項には書ききれない自分の思いを書くことで、遺産分割の真意を伝える(ただし法的効力はない)。

「付言事項は、遺言書の魂にあたる部分。これがあることによって遺言書に魂が入り、相続も進めやすくなります」(稲熊さん)
 
 五つめは遺言執行者の指定。遺言執行者とは、遺言の内容を実行してくれる人のこと。どんなに立派な遺言書を作っても、相続手続きを実行する人がいなければ意味がない。

 遺言執行者の指定がない場合には、相続人全員が協力して手続きをするか、家庭裁判所に選任してもらうかだが、互いに利害関係があるとトラブルのもとに。そうならないためにも遺言執行者の指定は必要だ。
 
 六つめは、不明点は専門知識のある人に相談すること。遺産配分に偏りがあったり、正当性が疑われたりしては、かえって相続人同士の対立を生む。弁護士、司法書士、行政書士、税理士、信託銀行などの金融機関など、その道のプロに手伝ってもらうのがよいだろう。(文・田中弘美)