橋本氏は出産した翌朝、実父から「本会議に出なさい」と怒られたという(2000年9月7日付朝日新聞夕刊スポーツ面「その後の五輪の女たち」)。本人は、出産翌日出勤の例をつくってはいけないと、1週間後に登院した。参院の産休制度(出産が理由の欠席)はつくられたが、何日取るかは本人に任せられている。長く取れば取るほど、肩身の狭い思いをする内容だった。1週間後など、フツーは動けない体のはずだが……かなりのプレッシャーのなかで、橋本氏は「出産する女」としてわきまえて仕事をしてきたのだろう。子ども産むのも、軽い骨折するのも同じくらいですよ~な、軽さで振る舞うことで「男並み」に仕事をしてきた。

 橋本氏の過去のセクハラ事件を複雑な気持ちで見ている。もちろんあってはいけないことと思う。けしからん! 同意を何だと思ってるんだ! セクハラに男女は関係ない! と正論を言うことは簡単だ。でも、笑い声がうずまくなかでキスやハグを強要する橋本氏をみて、古傷が痛む……というような思いを味わう女性は、実は少なくないのではないか。それこそ「男並み」を求められる男性社会で生きている女性にとっては。

 過激に下ネタを何でもない調子で言ったり、自ら性的に自虐したり、AVも男性と同じように楽しんでいると吹聴したり、性的からかいやエロをサブカルのように楽しもうと積極的な姿勢を見せることで、男性社会で「男並み」であろうと振る舞おうとしている女性たちは決して少なくない。「男のエロ文化」にフェミのようにいらつきを見せず、理解と共感を表明し、むしろ共に楽しんでいるという振る舞いをすることで得られるポジション。「性的お遊び/性的からかい」を批判しないどころか、一緒にからかう側に立つ女。そういう場所にあることで、守られることもある。

 大手企業に勤める知人(女性)が、接待でキャバクラや風俗に行くことがあると言っていた。キャバクラでは隅のほうに座り、ソープランドでは受付で終わるのを待つのだと自虐気味に話していた。それができてこそ、女だけれど一人前の営業マン! になれるのだというような地獄は、決して100年前の話じゃない。

 性差別者の後任が、日本のセクハラ問題や性差別、女の生きがたさの複雑さを表象する50代女性。橋本聖子氏の顔を見ると目を背けたくなるような、悲しみに胸がいたい。

北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。作家、女性のためのセックスグッズショップ「ラブピースクラブ」代表

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北原みのり

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北原みのり(きたはら・みのり)/1970年生まれ。女性のためのセクシュアルグッズショップ「ラブピースクラブ」、シスターフッド出版社「アジュマブックス」の代表

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