コトラー教授は、新型コロナウィルスのパンデミックで企業は「通常のリセッション時と同様の対応を行った」と指摘する。具体的には、「『解雇や休職などで従業員数を減らす』『商品価格を割り引くなどで販売を維持しようとする』『広告やマーケティング費用を削減する』『発注をキャンセルし、サプライヤーへの支払いを遅らせ、キャッシュを確保する』といった行動を取った」という。

 一方、消費者の側では、「初期には恐怖に駆られて買いだめし、次には消費を控えて貯蓄しようとした。とりわけ中産階級で、これまでより安いブランドを買う動きが強まっている。また購入場所を実店舗からオンライン通販にシフトし、通勤を控えZoomなどを使って自宅で仕事するようにもなった」といった行動が見て取れたという。

 コトラー教授は企業と消費者のこうした反応によって、「それまでも進みつつあったデジタル化が加速され、コロナ禍前までは減少しつつあった貧困が増加に転じ、拡大しつつあった富裕層とそれ以外の層の経済的格差が一層広がった」と警鐘を鳴らす。

■新しい消費者行動グループが出現

 コロナ禍では、消費者心理にも「自宅の重要性に気づき、その居心地を意識するようになった」「気候変動、人種差別問題、選挙などに関心を高めている」といった変化が起き、その結果、「新しい『消費者行動グループ(New Consumer Behavior Groups)』が出現している」という。

 教授はそれらを、「Life Simplifiers(持つモノを減らす)」「Degrowth activists(消費の拡大を懸念する)」「Climate activists(地球環境保全を重視する)」等に分類し、企業に対しては、「短期間にモデルチェンジを繰り返して消費を喚起するといった若者向けのマーケティング手法は、彼らの批判の対象になりうる」と注意を促している。

 コロナ禍からの経済回復については、「消費者の多くは行動に慎重になっているため、V字回復は難しく、U字回復になるだろう」「業種や政府の施策の巧拙によるが、コロナ禍以前の2%成長や雇用を取り戻すのに、およそ2年から4年が必要」との予測を披露した。

 企業はこの期間中、「人は困っているときに助けてくれた相手を覚えている」ので、「自分たちが常に顧客を気にかけていることを示す」べきである、とした。

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