■世界は『社会的資本主義』へ移行していくと予測

 より長期的な経営戦略としては、新たなデジタルテクノロジーとそこから生まれた新たなマーケティング手法を使いこなしていくことが求められる。中でも重要なツールとして、「AI(ソーシャルメディア、アルゴリズム)」「センサー、AR/VR、ロボット工学、自然言語処理、チャットボット」を挙げた。

 ここから派生するマーケティング手法としては、「マーケティング・オートメーション」「カスタマージャーニー・マッピング」「タッチポイント・マーケティング」等があるが、「これらについては私の前著『コトラーのマーケティング4.0 スマートフォン時代の究極法則』(朝日新聞出版)に要約されています」とのことで、軽く触れるに留まった。

 コトラー教授は現在、『マーケティング4.0』に続く『マーケティング5.0』を準備中であり、来年早々には上梓できる予定という。こちらは『4.0』以降に発達してきた新テクノロジーとマーケティング手法に焦点を当てたもので、マーケターには見逃せない新著となりそうだ。

 講演の終盤、コトラー教授は「今後は多くの国で、GDPだけでなく、人々の幸福度が指標として用いられるようになるでしょう」との見通しを示した。

 一つの目標となるのが、経済的に成功しつつ国民の幸福度も高い、スウェーデン、フィンランドなど福祉資本主義路線をとる北欧諸国であり、「世界経済は格差の解消をめざす『社会的資本主義』へ移行していくでしょう」と述べた。

「物事は変わってゆくものであり、企業が5年後にも今と同じ経営をしていたら消えていきます。今回のパンデミックもかつてない出来事であり、私もコロナ禍でのみなさんの経験を、ぜひお聞かせいただきたいと思っています」

 その人柄に多くの人の敬愛を集める教授らしく、謙虚に講演を締めくくった。(取材・文/久保田正志)