かといって家事や育児が完璧かと言われれば、そんなことはありません。仕事に戻りたい焦りから、なかなか寝ない娘にいら立つこともしばしば。ブランコに乗る娘の背中を押しながら、携帯で仕事のメールチェックをすることもあります。

「仕事も育児も30点だ」

 そんな、「なにもかもが停滞している」感覚が、私の「モヤモヤ」とした思いでした。

――新聞記者というと、激務だというイメージです。出産時は政治報道に携わっていたとか。育児との両立はかなり大変だったのではないですか?

高橋:当時は政治家や官僚に対していわゆる「夜討ち」を毎日のようにしていました。日付が変わったころに帰宅というのは珍しくなかった。政治家の家を夜回りする前に時間があれば娘を風呂に入れたりもしていましたが、そんなのは今思えばただの自己満足だったなと思います。妻は育休中で当時の私は、「仕事に支障のない範囲で育児に関わる」というスタンス。実質的に妻のワンオペ育児でした。

――現在では夫婦で均等に家事・育児を分担しているそうですが、なにかきっかけがあったのですか?

高橋:娘が冬に感染症にかかり、リビングで嘔吐してしまったことがありました。泊まりの出張から帰ると、絨毯(じゅうたん)が吐しゃ物で汚れていて、バスタオルをかぶせたままでした。妻がぐったりした様子で「もう限界」と言った時、ようやく「このままじゃいけない」ということに気づきました。

――正直なところ、新聞記者は仕事と育児を両立できると思いますか?

高橋:難しいなあ。うーん、どうでしょう。例えば、政局が流動化したり、大きな事件・事故が起きたり、企業の統廃合があったりする。そういう局面で、ニュースを追いかけなければならない時、夫婦だけで乗りきろうとすれば、その時点に限れば「育児負担をパートナーと均等に分担する」のは難しいかもしれません。そこは相手に少し負担してもらう場面が出てくるかもしれません。

ただ、それでも育児に挑戦できる余地はあると思います。記者の働き方は裁量が大きいので、すき間の時間に自宅に戻ったりもできます。状況が落ち着けば、また関わりも増やせます。現にそうしている記者もいます。

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長時間労働を是とする人はほぼいない