―図の説明をお願いします。

例えば紛争地域に渡航した場合、身柄拘束などのインパクトが大きいリスクの可能性があります。このリスクに対しては、「回避」という行動が合理的です。「予防」は、インフルエンザに対してワクチンを打つことなどです。頻度はそれなりに大きく、インパクトが小さい事柄に対して合理的と言えます。また頻度が少なく、インパクトも小さい事柄に対しては、放っておいても問題ないため「保有」が合理的です。このように整理すると、「保険」という行動が合理的な場合は、一般のイメージよりも限定的であることが伝わると思います。

―図にある「保険」に該当するリスクが自分にとってどういった事柄なのかを考えたうえで、それぞれの生命保険や死亡保険を検討すべきだということでしょうか。

はい。例えば、将来生活習慣病にかかるリスクに対して医療保険に入っておくことは「保険」に該当すると考えがちですが、高コレステロール血症を避けたり、運動習慣をつけたりする「予防」も合理的な選択肢の一つです。また新型コロナウイルス感染症を例にあげると、当初は「感染力が強く、死に至る頻度が高い」というリスクに対して、「外出しない」という「回避」行動が合理的でした。しかしながら「感染力は限定的で、死に至る頻度が限定的」と再評価された場合、今度は「回避」ではなく、「保険」や「予防」、「保有」といった行動を検討すべきだと思います。

―保険に加入する前に考えるべき選択肢があるということですね。

図に照らし合わせて、病気や死亡など自身が危惧する事象が「どれくらいの頻度で起こるか」「どれくらい生活にインパクトを及ぼすか」を考えるといいと思います。インパクトについては資産も関係してきます。自分がどれだけ金融資産を持っているかで、病気・死亡などのイベントが起きたときのインパクトは変化します。同じ資産状況でも、「1000万円あればなんとかなる」人も、「子供がいるので3000万円は必要」な人もいてそれぞれリスクが違う。そういったご自身の事情を考えてから検討するといいでしょう。

そもそも日本国民には手厚い3割負担の「国民皆保険」があります。これは他国からしてみれば本当に恵まれた制度です。国民というだけですでに優れた保険に入っているのと一緒なんです。「国民皆保険」には「高額療養費制度」も含まれます。加えて国による「指定難病」への医療費助成もあり、この3つで大体の人は十分とも言えます。「高額療養費制度」は所得に応じて支払う金額が変わります。例えば、70歳以上で年収370万円以下の一般所得者であれば、どんな高額な治療を受けても一世帯での自己負担の月額上限額は5万7600円です。こうした制度と共に適切な貯蓄をしていれば、保険は、それほど必要なものではないかもしれません。それでも保険に加入したほうが「安心」だと感じてしまうのならば、「掛け捨て型」の保険をおすすめします。

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