だから、ベッキーや井上は、危機的状況に直面したときに最悪の選択肢を選んでしまったのだ。そのことによって、ポジティブ思考は必ずしもいいことばかりではないというのが誰の目にも明らかになり、ポジティブを自ら公言する人はうさん臭く見えるようになってしまった。

 その点、確かに高岸はポジティブキャラではあるが、今のところ彼らのような後ろ暗い部分は感じられない。キャラとしてわかりやすく誇張されているところもあるとはいえ、根っからの前向きさを感じさせる。

 熱血さは松岡修造、ゆっくりしたしゃべり方は戦場カメラマンの渡部陽一、怪物じみた不気味な存在感はオードリーの春日俊彰にも似ている。いわば、高岸は、それらの要素をつぎはぎしたフランケンシュタイン的なモンスター芸人である。

 しかし、彼の根底には、高校野球の名門校でピッチャーを任されていたという圧倒的な実績がある。抜群の身体能力と厳しい練習に耐えてきた精神力の強さは折り紙つきだ。

 また、そんな彼をサポートする前田の存在も大きい。前田は自分たちのコンビを野球のバッテリーに例えていたことがあった。高岸がピッチャーで、前田がキャッチャー。前田は、自分の仕事は高岸にいい球を投げさせることだと割り切り、そのための環境を整えることに全力を注いでいる。

 高岸にのびのびと動いてもらうために、あえて台本は読まなくていいとアドバイスしたりすることもあるという。

 お笑いコンビでは、片方ばかりが目立っていると、もう一方に嫉妬心が芽生えてしまいがちなものだが、前田にその気配はない。どんなに高岸ばかりが目立っていても、前田は腐る様子がない。

 野球はチームプレーのスポーツである。ピッチャーばかりが目立って、キャッチャーが目立たないからといって、キャッチャーが嫉妬しても仕方がない。大事なのはいい球を投げさせて、試合に勝つことだ。前田はそう割り切っているのだろう。

 高岸の夢を叶えることが前田の夢であり、みんなの夢を叶えることが高岸の夢である。高岸がしばしば口にする「やればできる」は、彼らの母校である済美高校の校訓だ。

 本当の意味でのポジティブ思考とは、いいところばかりを見て悪いところを見ないということではなく、「やればできる」と思い続けることだ。「やればできる」の世界にいる限り、できないことはない。ティモンディは、お笑い第七世代最強のバッテリーである。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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