武田:そもそも、「リアル」というのは存在するんですかね。テレビの中に。

上出:ああ……難しい議題に自ら突入しました(笑)。「テラスハウス」のこと(※)があって、あらためて「リアルとは何か」をよく考えるんです。あの問題にはいろんな側面がありますけど、「リアルとは何か」に関して言えば、ほとんどの批判が的外れだったと思います。「台本があるかないか」「スタッフの指示があったかないか」という議論に矮小化されてしまった。だけど本当は、プライベートをシームレスに商品化する装置であるSNSや、現代の見世物小屋とも言える「テラスハウス」という箱そのものがいかに人間に“演技”を求めるかということが議論されるべきだったでしょうし、その要請された“演技”も含めて現代のリアルだとも僕は思います。

(※2012年10月から放送された恋愛リアリティー番組。その後、動画配信サイトでも配信されるようになった。今年5月に出演者の一人が亡くなり、放送および配信が中止になった)

武田:例えば、上出さんの番組が褒められるとき、「これが世界の最深部のリアルだ」といった言われ方をされてきたと思います。でも、撮影した映像から何十分かの番組を作り上げる過程では、上出さんの作為が入るわけで、「リアルではない」という見方もできるわけですよね。

上出:もちろんです。

武田:「リアル」や「やらせ」は、非常に取り扱うことが難しい言葉だと思います。万人に共通の概念があるわけではないのに、それぞれの場面で断定して使われるので。

上出:Netflixの「日本沈没2020」(※)はご覧になりました?

(※2020年7月に配信されたNetflixオリジナルアニメ。1973年に刊行された小松左京のSF小説『日本沈没』を原作に、舞台を2020年に移して改作されている)

武田:見てないですね。

上出:やばいんですよ。

武田:どうやばいんですか。

上出:「日本沈没」って、大震災が起こって日本が沈むという、いわゆるディザスターものなんですね。で、かなり多くの人が、2話の途中ぐらいでやめちゃうんです。なぜかというと、「ありえない」と思うことが、まるでリアリティーを追求したかのようなそぶりで次々と起こるから。いままで慣れ親しんできたリアリティーが通用しない。苛立つんです。

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「だから」で接続されない日常