ここまで「行動をマネする意義」を説明してきました。それでは次に、別々の行動をする複数の人がいる場合に、どの人をマネしやすいのか、説明していきます。

 幼児の行動を観察していると、判断がつかなくなったときに、自分を見守る大人を見て判断の助けにしているのがわかります。その大人が笑い顔ならば、今の行動を続けますが、困り顔ならば行動をやめます。これを「社会的参照」と言います。

 自分を見守ってくれる大人は“信頼できる人”です。幼児は、その人の意見に従っていればうまくいくと信じる傾向があります。さらに、その信頼できる大人の行動をマネするようになります。信頼は、家族などの血縁による親密感、過去に親切にしてもらった程度、格好よさなどの直感、人々からの評判の程度などから総合的に判断されています。

 多くの人々が異なる行動をしている場合に誰をマネするかは、このようにその人に対する信頼感の程度に左右されます。私たちは、より信頼できる人をマネして、その人に従うのです。

 子ども間で生じる“マネっこ”も、基本は同様の心の働きから来ています。Aさんが、特定の子(仮にBさん)を常にマネをしているならば、AさんはBさんに信頼を寄せているのです。あなたが誰かにマネされているとすれば、あなたがマネをしている子に信頼されているということなのでしょう。もしかしたら、あなたが人気者(=多くの人から信頼されているということ)なのかもしれませんね。マネをしてくる子にとっては、あなたが理想の“あこがれの人”なので、あなたをマネすることで少しでも理想に近づきたいと、心のどこかで思っているにちがいありません。

 あなたがもし、マネされていやな気持ちになっているのであれば、マネする行為をいやがらせのように感じたり、うっとうしいと感じるでしょう。しかし、それは好意の表現の一種なのです。

 どうしてもやめてほしい場合は、その子に、たとえば「しゃべり方をマネされると、いやな気持ちになるよ。このしゃべり方は自分でも気に入っていないから」などと話してみましょう。

【今回の結論】マネされることは、相手からの好意のあかしです。マネする人を暖かく見守るようにできればいいですね

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石川幹人

石川幹人

石川幹人(いしかわ・まさと)/明治大学情報コミュニケーション学部教授、博士(工学)。東京工業大学理学部応用物理学科卒。パナソニックで映像情報システムの設計開発を手掛け、新世代コンピュータ技術開発機構で人工知能研究に従事。専門は認知情報論及び科学基礎論。2013年に国際生命情報科学会賞、15年に科学技術社会論学会実践賞などを受賞。「嵐のワクワク学校」などのイベント講師、『サイエンスZERO』(NHK)、『たけしのTVタックル』(テレビ朝日)ほか数多くのテレビやラジオ番組に出演。著書多数

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