実は記者も、マスク着用を窮屈に感じる一方で、「楽さ」も感じていた。初対面の人への取材は少なからず緊張するものだが、マスクを付けると普段よりも少し落ち着いてのぞめているような感覚を覚えた。

 思わぬマスクのリスクを耳にし、ますます外し時を見失ってしまった記者。マスク生活を含めた“行動変容”について、「とりあえず秋まで様子を見てはどうか」と提案するのは、京都大学ウイルス・再生医科学研究所の宮沢孝幸准教授だ。

「これから夏になってウイルスが死にやすくなる半面、空調がきいた室内で過ごす時間が増えます。つまり、外での感染リスクは低くなりますが、密室での感染リスクは高まるので、どちらの影響がより大きく出るかが、再流行するかどうかを左右する。集団免疫を獲得するほどまでには感染が広がりきっていないので、油断すればすぐに流行する。ひとまずは緩やかな行動変容を秋くらいまで続けて、様子を見る必要があると思います」

 実際、首都圏などに先駆けて5月14日に緊急事態宣言が解除されていた福岡県の北九州市では、陽性患者が再び増加傾向にある。このまま感染拡大の「第二波」となってしまうのか、気がかりだ。

 こうした状況からか、マスク業界は長期に及ぶマスク需要を見込んでいる。業界大手のユニ・チャームの広報担当者はこう話す。

「1月下旬ごろから生産ラインを24時間体制に切り替えて稼働させ、月に1億枚ほど生産しています。生産量は以前の2倍になります。増産体制をいつまで続けるかは未定ですが、生産枚数をさらに増やす見込みです」
 
 アイリスオーヤマは6月から生産設備を拡大し、月に8千枚だった生産力を7月には2億3千万枚にまで伸ばす。コロナ禍以前にマスクを作ったことのなかった電機メーカーのシャープは、3月下旬からマスク生産を開始。これまで5回にわたり抽選販売をおこなったが、いまだに倍率は100倍超。広報担当者によると、今後も抽選販売を続けていく予定だという。

 各社がこぞってマスクの生産拡大に動く様子は、これからの私たちの長いマスク生活を予感させる。ここまで取材をし、記者はひとまず秋まではマスク生活を続けてみようと思う。

「マスク、いつまで着ける?」

 寝室で子どもを寝かしつけている妻に聞くと、「まだそんなこと考えてたの?周りにあわせるよ!」と一蹴されてしまったが、記者は人知れずマスク生活への覚悟と決意を固めたのだった。(AERA dot.編集部/井上啓太)