同会議の活動がベースとなり、「Community Nurse Company株式会社」が遠隔診療のサポートも始めました。「定期的に通院して薬をもらっていたが、今は病院に行くことすら(感染のおそれがあるので)怖い」という声に応えたのです。

「地域の病院が電話診療を始めたので、そのお手伝いをしています。具体的には、耳が遠い方などの隣に座って、かわりに医師や看護師と電話で話したりしています。患者さんの身体的なハードルに加えて、電話だと表情が見えにくいなどの壁もありますが、第三者が入れば生活の状況なども伝えられます。患者さん本人が『大丈夫です』と言っていても、心配な暮らしぶりなどがあれば伝えることで診断材料になる場合もありますから」

 矢田さんたちは、対話やコミュニケーションのなかで本質的なニーズを探り、どう接点を持ち、どうサポートしていくかを模索しています。遠隔診療のサポートだけではなく物資調達など、ほかのニーズもあると分かり、さまざまなサポートを総称した「駆けつけ型健康不足解決サービス お元気確認サポート」というチラシを雲南市と出雲市に配り始めました。

「直接会えなくても『あなたのことを思っているよ』という思いを介在させていくことが大事です。それを機に、家に引きこもって暗かった人が『このままじゃいけんわ』となることもあります。気持ちが介在していないチラシだけがポストに入っていても、そうはなりません」

 ある日、矢田さんたちに「病院ではどうやって感染症の対策をしているのか」と聞いてきた男性がいました。感染予防のノウハウを説明したら、その後、自宅横にあった農機具をしまう小屋で服を全部脱いでから自宅に入るようにしたそうです。

「あるものを使って創意工夫して対処されていて、すごい! と思いました。知識を得る機会さえあれば、力を発揮できる人っているんです。今は、機会格差があるだけ。知る機会さえあれば花開いていくはず。地域のみなさんと接していると、『この人たちならできる!』って思いますよ。彼らはなんだかんだいって、力を持っているんです。勇気づけられたり、肯定してもらえたり、はっぱかけがあれば、固執せずに新しいことにトライしていけます」

 矢田さんは、医療機関に依存した社会システムの根本的な変化を望んでいます。依存しているとクライシスに弱いからです。

「機能を分散したなめらかな社会構造にして、人々が感染に対して柔軟でタフな暮らしぶりを持っていれば。そういうまちこそ、元気なまちだと思います。今こそ暮らし側に帰属しているシステムを取り戻していかないといけない。withコロナは、チャンスなんです」
(文・小久保よしの)

≪取材協力≫
矢田明子/「Community Nurse Company株式会社」代表取締役、「株式会社コミュニティケア」取締役、「NPO法人おっちラボ」副代表理事、雲南市立病院企画係保健師/島根県出雲市出身/26歳のときに父の死を経験し、看護師を目指して27歳で大学へ入学。大学3年のときにコミュニティナースとして自ら活動を開始。看護師免許を取得後、島根大学医学部看護学科に編入し保健師取得。2016年から「コミュニティナースプロジェクト」でその育成やコミュニティナース経験のシェアをスタート。2017年に「Community Nurse Company株式会社」を設立。「日経WOMAN」で「ウーマン・オブ・ザ・イヤー2018」を受賞。著書に『コミュニティナース まちを元気にする“おせっかい”焼きの看護師』(木楽舎)がある。