また、難病にかかっている女性が大好きな買い物に行けなくなってしまったため、看護師のメンバーが同会議と連携しているスーパーマーケットへ同行し、足腰の弱い人専用のショッピングカートを使って買い物を楽しんだといいます。

 そのように活動していた2020年の年始、新型コロナウイルスが世界中に影響を及ぼし始めます。全国各地を駆け回っていた矢田さんは雲南市の拠点に身を置きました。いわゆる「3密」を避けながら、地域でおせっかいをどう焼き続けていくのか————。ここからコミュニティナースたちの発想力と知恵による、新しいケアへの挑戦が始まりました。

 在宅の患者や住民たちのニーズを把握するため、コミュニケーションは必須であるものの、高齢者の多くはスマホなどのデジタルツールを使いこなせません。矢田さんたちは考えました。

「月に一度開催していた会議は、密にならないよう野外で開催し、距離をとって座り、お互いの気配を察する“気配だけの地域おせっかい会議”に切り替えました。また、待っているだけではさまざまな人に会えないので、“飛び出す地域おせっかい会議”もしています。オープンエアー型のランドカーに乗って街を移動し、1.5メートルの長さがあるしゃもじにお茶をのせて渡したり、ベルト式のスピーカーを使って会話したり(笑)。ふざけているようですけど、『こんな方法で会いに来てくれた!』とクスッと笑って家から出てきてもらえたらと考えたんです。警察のご理解と協力もあって、許可が出ている範囲で活動しています」

 ほかにも、地域の保育園の園児たちがメッセージを書いたハガキを高齢者に届けるなどしているそうです。

 さらに、同会議が仕掛けたのが「コロナ川柳」です。はじめは地域で川柳を書く短冊を配っていましたが、好評だったためFacebookで誰もが投稿できる専用ページをつくったところ、口コミで広がってメンバーは千人以上になり、地元のテレビ番組のニュースで定期的に紹介されるまでになりました。

 いくつか紹介すると、<乗り越える テイクアウトで より肥える!><妻がとる 僕との距離は 5メートル><ぼくたちは 不要不急の キスをする>、<マスクより パンツかぶれば 人よける>など。矢田さんは「日々おもしろい川柳が投稿されています(笑)。人々を不安がらせるのではなくて、前向きにして一歩進むよう背中を押すには、正しさよりもクスッと笑わせるような視点の転換が役に立ちます。自分が暮らしをおもしろくしていくスイッチが入らないと、スタートしないと思うんです」と話します。

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「あなたのことを思っているよ」の思いを大切に