前田は同じく自身が主宰したリングス時代から派手なKOや一本に繋がる実力差のある組み合わせではなく、選手の実力を伸ばすため拮抗した同士の対戦をマッチメイクしており、アウトサイダーでも同様の方針をしいていた。

 さらにキャリアの早いうちから高いレベルに触れることで意識が向上し実力も伸びると前田は言い、在日米軍などの外国勢、あるいはプロ選手との対抗戦を行い、選手たちに刺激と成長の機会を与えていった。

 前田の期待に応え実力を増していった選手たちも多く登場したが、プロの壁は高く、思うような結果を残すには至らなかった(ONE Championshipで世界フライ級王座に挑んだ渋谷莉孔の例はあったが)。

 そんな中、国内最大のMMAイベント「RIZIN」にまず登場したのが朝倉海。兄・未来に誘われ格闘技を始めた海はアウトサイダーで55-60kg級の初代王者となり、韓国の団体ROAD FCへの遠征も経験。より格闘技に集中するため2017年夏に上京すると、負傷選手の代打で同年末のRIZINに初出場し、ストライカーの才賀紀左衛門を逆に打撃で撃破する。

 兄の未来はアウトサイダーで史上初の2階級制覇(60-65kg級・65-70kg級)を果たした後、海と同じく韓国ROAD FCに参戦。この経験を経て18年8月、3団体王者の日沖発戦でRIZINデビューを迎え、不利の予想を覆し1R TKOで勝利した。そこから19年5月に開設したYouTubeチャンネルの勢いも加え、日本格闘技界のトップファイターに上り詰めた。

 金太郎もアウトサイダー出身であるが、DEEPやパンクラスといった団体にも並行して出場。アウトサイダーにおいてこそ秒殺勝利を重ねたが、プロでは黒星が先行することもあった。しかしそこで心折らさず、好戦的なスタイルも変えることもなく戦い続け、パンクラスでランキング1位となり、今年初出場となったRIZINで期待を抱かせるデビュー白星を挙げた。

 現代版あるいは総合格闘技版「あしたのジョー」を目指し、前田日明がアウトサイダーを旗揚げして12年。不良たちの中からダイヤの原石を見出す試みは、プロの壁に阻まれた時期もあったが、前田の予想通り、あるいはそれ以上にいま花を開かせている。朝倉兄弟に金太郎、日本MMAのメインストリームで活躍する選手たちはその眼力の正しさを証明しているのかもしれない。 (文/長谷川亮)