ジェーン・スー。東京生まれの日本人。作詞家、コラムニスト、ラジオパーソナリティ。TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」のMC。著書に、『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』『女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。』『生きるとか死ぬとか父親とか』『これでもいいのだ』、対談集に『私がオバさんになったよ』『女に生まれてモヤってる!』
ジェーン・スー。東京生まれの日本人。作詞家、コラムニスト、ラジオパーソナリティ。TBSラジオ「ジェーン・スー 生活は踊る」のMC。著書に、『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』『女の甲冑、着たり脱いだり毎日が戦なり。』『生きるとか死ぬとか父親とか』『これでもいいのだ』、対談集に『私がオバさんになったよ』『女に生まれてモヤってる!』

 新型コロナウイルス関連のニュースで心かき乱され、ストレスが溜まる日々。リフレッシュしたくても外出もままならない……。この状況だからこそぜひ読んでほしい、コラムニスト・作詞家のジェーン・スーさんの最新刊『揉まれて、ゆるんで、癒されて』(朝日文庫)から、心の疲れが吹っ飛ぶエッセイをセレクト。今回のお話は、疲れで浮腫んだ顔をどうにかするために訪れたアジア系マッサージ店。痛くて笑える「小顔コース」の顛末とは?

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 仕事終わりの23時。鏡に映った私の顔は、浮腫みとくすみでひどいことになっていました。まるで粘土人間! 早く寝ればいいのはわかっているけれど、いますぐどうにかしないと気が済まない。

 この時間から頼りにできるのは、アジア系マッサージ店です。今回は、渋谷道玄坂に朝まで営業中のお店を見つけたので行ってきました。

 フェイシャルを専門にしていないアジア系マッサージ店で「小顔コース」を選ぶには少し勇気が必要です。リーズナブルな価格に見合うプチプラ基礎化粧品が使われがちなのと、本来なら魅力である大胆かつ大雑把な施術が、フェイシャルでは仇になる場合もあるからです。しかし、今日の私は首から上をどうにかしたい。迷わず小顔コースを選びました。

 担当は、笑顔が可愛らしいアラフィフの中国人女性。期待通りの大雑把スタイルで、口にクレンジングクリームが入りそうになりながらも、無事メイク落とし完了です。

 老廃物が排出されやすい方向なんてお構いなしのグイグイ顔面マッサージの痛みに耐えたあとは、首マッサージ。施術者さんは手にクリームをたっぷりつけ、デコルテに向けて私の首筋をしごきます。その時です。それまで愛くるしい声でしゃべっていた彼女が、突然私の耳元で「かたい……かたい……」と囁き始めました。私の首がガチガチで驚いたようです。

「固いですよねー」と同調すると、彼女はグイと一層力を込めてきました。「グエェ!」とアヒルのような声を出す私。「痛い?」と尋ねる施術者さん。「はい、痛いです」と弱々しく答えると、彼女はひとこと「我慢して」と言い放つのみ。その後も手を休めることなく、親指で上から下へ、下から上へと首の腱をしごき続けます。その間も耳元で「かたい……かたい……」が続き、あまりの囁き女将っぷりに、痛みに悶えながら笑いを堪えるのが大変でした。

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ジェーン・スー

ジェーン・スー

(コラムニスト・ラジオパーソナリティ) 1973年東京生まれの日本人。 2021年に『生きるとか死ぬとか父親とか』が、テレビ東京系列で連続ドラマ化され話題に(主演:吉田羊・國村隼/脚本:井土紀州)。 2023年8月現在、毎日新聞やAERA、婦人公論などで数多くの連載を持つ。

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