「秘密基地ごっこ」だけでなく、ちょっとしたワクワク感が得られる想像上の工夫を、多くの人が子ども時代に行っているようです。

 私が耳にしたところでは、横断歩道の白い部分を“安全地帯”に見立てて、その上だけを踏みしめて道路を渡る、です。踏み外すと「地獄の底まで落ちてしまうぞ」と思いながら慎重に道路を渡ると、渡るときにはワクワク感が、渡り切ったときには爽快感が得られます。あるいは、寝ている布団は“海に浮かぶイカダ”であって、周りの海には“サメがうようよいる”と想像すると、ワクワク感とともに就寝できるようです。

 想像の中で練習することは、スポーツの練習方法としても効果が確認されており、「イメージトレーニング」として実践されています。

 子どもが「秘密基地ごっこ」に没頭し続けていると、「ありもしない空想にふけってばかりだけれど、大丈夫かな」と心配になってしまう大人もいます。しかし、生物として本能的に行っている“練習”だと考えれば、“空想”の目的に思い当たることができるのです。この空想行動は、必要性が薄れてくれば、だんだんと消えていくので、それまでは自由に“空想”するのがいいのです。

 最後に、個人差について触れておきましょう。危険の感じ方には、大きな個人差があります。危険をあまり感じない子どもは、危険回避の“空想”をする必要がないので、“空想”をする子どもが理解できず、ありもしないことを言う「ウソツキ」のように思います。

 一方で、危険を強く感じる子どもは、その恐怖心を解消するために“空想”をしがちになります。その子は「ウソツキ」なのではなく、想像力をうまく発揮しているのです。ところが「ウソツキ」呼ばわりされると、想像をひかえてしまい、恐怖心が解消できずに不安感が高まります。

 みんなが想像の役割を知って、理解しあえるようになるといいですね。

【今回の結論】狭い場所に隠れるのは、生物として遺伝子にインプットされている危険回避行動であって、敵をやり過ごす練習。敵から身を隠すことができると、本能的に満足する。ワクワク感が得られる想像があれば、積極的に活用してみよう。

著者プロフィールを見る
石川幹人

石川幹人

石川幹人(いしかわ・まさと)/明治大学情報コミュニケーション学部教授、博士(工学)。東京工業大学理学部応用物理学科卒。パナソニックで映像情報システムの設計開発を手掛け、新世代コンピュータ技術開発機構で人工知能研究に従事。専門は認知情報論及び科学基礎論。2013年に国際生命情報科学会賞、15年に科学技術社会論学会実践賞などを受賞。「嵐のワクワク学校」などのイベント講師、『サイエンスZERO』(NHK)、『たけしのTVタックル』(テレビ朝日)ほか数多くのテレビやラジオ番組に出演。著書多数

石川幹人の記事一覧はこちら