「会場いっぱいに若い人たちが押し寄せ、泣きながら音楽を聴いている姿を見て、きれい事じゃなく音楽の力を感じた瞬間でした」(関野さん)

 だが、現在はそんな呼びかけすらできない状況だ。

 大阪市のライブハウスから感染者が拡大し、そのことはメディアで連日報道された。しかし、いわき市で確認された感染者は10日までで1人のみ。集団感染が起きたクルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」に乗船していた客で、帰宅してからは市の健康観察を受けながら1人で過ごし、外出時にはマスクも付けていたという。福島県内では、その他の感染者は確認されていない。

 感染が拡大していない地域で、小さなライブイベントであればいろんな対策が考えられる。実際にクラブソニックいわきでも、新型コロナウイルスの発生当初から関係者と相談し、入場時の手の消毒や体調の確認、換気、咳エチケットなどの対応をして、現在も継続している。

「最初から『感染が確認されていないところは慎重に』と言ってくれれば、主催者やイベント企画者の動きも変わっていたかもしれません」

 と、関野さんは肩を落とす。

 感染症の集団発生対策には、一定の基準がある。たとえば、毎年流行する季節性のインフルエンザでは、学級閉鎖や学校閉鎖の実施は、クラス内での欠席者数の割合などをもとにした基準が各市区町村で定められている。2月25日に学校を再開した台湾では、学校の教職員で1人の感染者が出たら学級閉鎖、2人以上で学校閉鎖が基本方針になっている。

 一方で、日本政府の発表では現在でも自粛解除の基準が示されていない。安倍晋三首相は2月26日、「この1、2週間が感染拡大防止に極めて重要」として、多数の人が集まるスポーツや文化イベントについて「今後2週間は中止、延期、または規模縮小等の対応を要請する」と述べた。それから2週間が経った3月10日、自粛要請はさらに10日間程度延期されることになった。出口がどこなのかわからない、まさに「先の見えないトンネル」が続く。

 その自粛要請も、業態によって浸透しきれてない。集団感染が発生した地域でも、街を歩けば居酒屋やパチンコ店は通常通り営業している。ライブイベントは感染者数や開催規模の大小に関係なく全国一律で自粛が広がっているのに、なぜ、他の業態は通常通り営業できるのか。その線引もあいまいなままだ。

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立ちはだかる「100日の壁」