勝負師としての矜恃を見せつけた羽生結弦(C)朝日新聞社
勝負師としての矜恃を見せつけた羽生結弦(C)朝日新聞社

 フィギュアスケート14年ソチ五輪、18年平昌五輪で連続金メダルの羽生結弦が、憧れの地で舞った。GPファイナル、シーズン序盤の大一番となる舞台は、2006年トリノ五輪の行われた会場「パラベラ」だった。当時11歳の羽生が、名スケーターたちに魅せられ、五輪金メダルを目指すきっかけになった場所だ。

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 SP曲「秋によせて」はジョニー・ウィアー(米国)、フリー曲「Origin」は、エフゲニー・プルシェンコ(ロシア)へのオマージュ作品でもある。羽生と同じアイスリンク仙台で育ったトリノ五輪女子金メダルの荒川静香も含め偉大な先人たちが全身全霊を込め、滑った地。羽生には特別な感情があった。

「会場自体に凄く大きなエネルギーがある。自分が凄くスケートにのめり込んでいた時期の五輪があった場所。いろんな思い出がある。もちろん、記憶としての思い出もあるんですけど、記録として残っている。ここに残っているものは一生消えない。やっぱ、そういうものに勝手にですけど、勝手に力をもらいながら演技したい」

 自らを奮い立たせて臨んだ3年ぶりのファイナルの舞台。結果は満足するようなものではなかった。SPでは4回転トーループで着氷が乱れ、コンビネーションにつなげられず。ライバルのネーサン・チェン(米国)と12・95点の大差がついた。自身にとって最大の逆転劇を目指したフリーでは、2年ぶりに試合で封印を解いたルッツを含む4回転4種類5本の構成で臨んだ。さらに、トリプルアクセル―トリプルアクセルという新コンビネーションも組み込み、賭けに出た。

 もう後がない。それでも、何も爪痕を残さないまま沈むのは、羽生結弦の美学に反する。「SPの後、ほぼすぐ(4回転)5本にしようと思った。勝てないとは思っていたけど、なにかここで成し遂げたいと思っていた」。4回転5本は意地で降りた。2連続トリプルアクセルの新コンビネーションは前半のジャンプが抜けてしまった。

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自己ベストにはおよばなかったが…