カメラは二台。カメラマンさんはカメラを肩に担いで、音声さんは長い竿のマイクを構え、動きに対応できるよう構える。
我々役者はセリフを最終確認し、
私「投げられたあとなるべく海に浮いていようとは思ってるけどやってみないとわからないな」
小池「了解です、そこ、待ちます」
私「投げ飛ばし返せるようにしたいけどどういう体勢になるかは分からない」
小池「オッケーす。自分でも飛ぶんで」
私「うん、おねがい」
みたいなやり取りをし。そして「スタート!」の声。
いざ海に入るとこれが、水に足を取られて全く思うように動けない。
投げ飛ばされ、ジャポーンと突っ込んでみたがそこまでの動きで息が上がってしまっていてぜんぜん浮いていられない。
必死に反撃にかかり、気付くと倒れ込んだ私の頭は小池君の股の間。
「このままいくしかない」
両手で小池君の足を掴み、投げ飛ばす体勢に入る。
なにせ打ち合わせていない動きだ。頼むぞ小池君、自分の頭をガードしてくれよお!と心で叫びながら思いっきり後ろに投げ飛ばす。
頭から海に逆さまに突っ込んだ小池君。立ち上がって反撃!
そこから投げ飛ばされては投げ飛ばし、セリフのやりとりを挟んで、カット!
一気に現場の空気が和んで、どこからともなく笑い声と拍手がわいた。
「あそこ、『来るな』ってすぐ分かりました」
とずぶ濡れで爽やかに笑う小池君。
そうして、ドラマティックなカット割り、緊張感を煽る音楽、過剰に高ぶる芝居、全てが合わさって「奪い愛、夏」は完成していったのだ。
小池徹平くんと松本まりかちゃん。
この二人が“葬式の参列者”の緊張感をがっつりとキープして物語の土台を支えているので、お坊さんが大真面目に狂っていくほど、そこに面白さが滲んでくる。
狂った人たちにツッコむ役回りの人は存在しない。
その役回りは視聴者の皆さんに委ねられている。
このあたりもネットドラマを意識したおさむさんの戦略なのだと思う。
思わずコメントしたくなるような。
誰かと共有したくなるような。
とにかく、こんなドラマはおさむさんにしか作れない。
やり切った2019夏だった。