大井川鐵道は金谷を起点に大井川沿いに南アルプスに分け入る山岳鉄道路線で、金谷~千頭間の大井川本線(39.5キロ)と千頭~井川間の井川線(25.5キロ)の2路線からなる。「SL急行」や「きかんしゃトーマス号」などの観光列車が人気の大井川本線に対し、井川線は小型客車を機関車が牽引し険谷の急勾配を北上、途中のアプトいちしろ~長島ダム間では日本唯一のラック式鉄道(アプト式)が採用されているなど、変化に富む道行きが楽しめる。

 創立は1925年で、大井川流域に計画されたダムや発電所建設に伴う資材や木材の搬出入が敷設の主目的であった。1949年に実施された電化は増大する貨物輸送に対応するためで、電化後は電車のほかEL(電気機関車)投入されてきたのである。

「ELかわね路号」のメイン牽引機として用いられるE10形電気機関車・E101とE102はともに1949年の製造。当初は大井川本線の貨物列車で運用されたのち、1976年に「SL急行」がデビューすると、その補助機関車としても用いられるようになった車両だ。車体の前後に手すりつきのデッキを持つのが外観上の特徴で、国鉄往年の名車として名高いEF15形などと通ずるスタイルが目を引く。

 この2両のほか、西武鉄道から譲渡されたE31形が戦列に加わる予定。E31形は1986年から翌年にかけて製造された直流機関車で、西武時代には保線工事車両や車両輸送列車などの牽引で活躍してきた。大井川鐵道に転籍したのは2010年9月で、E10形と同様に「SL急行」の補助機関車などとして務めを果たしている。

 客車は「SL急行」でもおなじみの旧国鉄の旧型客車が用いられる。木造車体や白熱灯、タイル張りの洗面所など往年の姿を伝える貴重な車両たちだ。

 車内は4人がけボックスシートで、全席がボックス席のとても貴重な車両だ。手動式乗降扉や開閉できる側窓なども懐かしい体験となるはずだが、車内には暖房設備がないため、防寒対策をしてほしい旨を大井川鐵道ではアナウンスしている。

 なお、使用車両は当日に決定される。

■それそのものが貴重な客車列車

 大井川本線では通常はEL列車の運行はなく、今回の「ELかわね路号」は貴重な体験をするチャンス。かつては「ブルートレイン」をはじめ各地を走っていた機関車牽引の旅客列車(客車列車)だが、いまや現役の定期列車で走っているのは大井川鐵道井川線と黒部峡谷鉄道のみ。また、こうした時代背景もあって、ELなど機関車が牽引する客車列車を知らない世代に突入しつつあるのも事実。「ELかわね路号」の運行は、わが国が培ってきた鉄道文化を伝えるイベントともなるに違いない。(文/植村 誠)

○植村 誠(うえむら・まこと)/国内外を問わず、鉄道をはじめのりものを楽しむ旅をテーマに取材・執筆中。近年は東南アジアを重点的に散策している。主な著書に『ワンテーマ指さし会話韓国×鉄道』(情報センター出版局)、『ボートで東京湾を遊びつくす!』(情報センター出版局・共著)、『絶対この季節に乗りたい鉄道の旅』(東京書籍・共著)など。