視聴者が求めるリアルな?「クズっぷり」で評価が急上昇、安田大サーカス・クロちゃん(C)朝日新聞社
視聴者が求めるリアルな?「クズっぷり」で評価が急上昇、安田大サーカス・クロちゃん(C)朝日新聞社

 8月24~25日に放送された「24時間テレビ」(日本テレビ系)でヤラセ疑惑が持ち上がっている。問題になっているのは「二宮和也のあの人に会いたくない」というコーナーの一場面である。この企画の趣旨は、出演者とその人が会いたくない人を対面させて、仲直りしてもらうというものだった。ここに登場したのが、今をときめく人気お笑いコンビ「EXIT」の兼近大樹だった。

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 兼近が会いたくない人として出てきたのは、学生時代に付き合っていた彼女だった。スタジオで流されたVTRによると、彼女は兼近との交際中、彼が別の女性と二股をかけていることを知ってしまった。その後は兼近と距離を置くようになり、それから男性不信に陥ってしまったのだという。

 放送後、彼女は自身のYouTubeチャンネルでこのことについて語る動画を公開した。そこで語られていたのは、VTRの内容に事実と異なる点がたくさん含まれていたことだった。そもそも彼女は兼近が別の女性と親しくしている様子を目撃したこともなく、二股をかけていたとも思っていなかった。単に番組スタッフから「二股をかけていたらしいですよ」と聞かされていただけだった。

 また、事前の打ち合わせで兼近のイメージが悪くなるような話がないかと求められたが、いい思い出ばかりで特に悪い印象がなかったので、何も答えられなかった。さらに、兼近と別れた後で彼女が男性不信になったという事実もない。

 また、これを裏付けるかのように、兼近と相方のりんたろー。も自身のツイッターで、番組内で兼近を無理に悪者に見せるような演出が行われていたことに違和感を表明していた。兼近は生放送中にもツイッターでも二股をしていたこと自体を否定していた。この件に関する彼らのツイートはのちに削除された。この経緯を見る限りでは、出演した当事者が納得できないような何らかの行き過ぎた演出が行われていた可能性は高い。

 この騒動を受けて、私自身もそのコーナーをチェックしてみた。実際に番組を見て率直に思ったのは「ヤラセ云々の前に、企画自体があんまり面白くないなあ……」ということだった。

 今の時代、芸人がバラエティで暴露話をされるというのなら、それなりに強力なネタを用意する必要がある。本人がある程度は本気で痛いところを突かれたと思って慌てるようなネタでなければ、目の肥えた視聴者には通用しない。

 最近のバラエティでは特に、文字通りの「本物」「本音」が求められている。作り手が仕組んだような薄っぺらいウソは不要なのだ。例えば、安田大サーカスのクロちゃんを見よ。息を吐くようにウソをつくあの男は、掛け値なしにあのまんまの人間だ。だからこそ、バラエティ番組でそれをネタにして面白がることができる。おぼん・こぼんのコンビ仲が悪いのも事実だ。そこには事実にしかない「重さ」や「痛さ」があり、それが視聴者の心を震わせるのだ。

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ラリー遠田

ラリー遠田

ラリー遠田(らりー・とおだ)/作家・お笑い評論家。お笑いやテレビに関する評論、執筆、イベント企画などを手掛ける。『イロモンガール』(白泉社)の漫画原作、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと「めちゃイケ」の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』 (イースト新書)など著書多数。近著は『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)。http://owa-writer.com/

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