隠れファンも多い、井森美幸 (c)朝日新聞社
隠れファンも多い、井森美幸 (c)朝日新聞社

 8月29日は、井森美幸(50)が世に出た日だ。35年前のこの日、本選が行なわれたホリプロタレントスカウトキャラバンで、鈴木保奈美や小原靖子(のちの相原勇)を抑え、グランプリを獲得。翌年4月「瞳の誓い」で歌手デビューを果たした。

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 以来30数年間、息の長い活躍をしているわけだが、代表作が何かというとなかなか思い浮かばない。それこそ、キャラバンの予選で披露した「井森ダンス」ことジャズダンスの映像なのではと言いたくなるほどだ。ちなみに、あのダンスは現在、テレビで見ることはできない。ホリプロが各局にお願いをして「封印」させたからだ。

 2015年には、その理由が「水曜日のダウンタウン」で解明された。それは、大物の恥ずかしい過去だから、というありがちなものではなく、ホリプロのある意味せこい戦略だった。

「あまりに、こすり過ぎてしまいまして、これ以上こすり過ぎると面白くなくなるんじゃないかということで、現状、少し寝かせよう、 熟成させようと。弊社としては、あのVTRはすごい大事な重要なコンテンツです。いったん、あのVTRはみなさんに、一度忘れていただければ」

 いわば、貴重なコンテンツだからこそ、使い減りすることを避けているわけだ。

 そんな井森自身も「使い減り」しないタレントである。それは代表作が挙がりにくいというキャリアによるところも大だろう。歌にせよ芝居にせよ、代名詞的な作品があったり、これぞというべき売りがあったりすると、そのイメージがつきすぎたり、そればかりを求められたりして、むしろ飽きられやすいからだ。

 そういう観点から、彼女のキャリアを振り返ってみると――。

■何かがものすごく「できる」わけでもない

 歌手として伸び悩むなか、デビュー2年目には大映テレビ制作の連ドラ「遊びじゃないのよ、この恋は」に主演。ホリプロは「スチュワーデス物語」の再現を狙ったわけだが、二匹目のどじょうはいなかった。

 その後、バラドルとしてブレイクしたものの、彼女の場合、森口博子のモノマネのようなわかりやすい芸がウケたわけではない。また、松本明子のように放送禁止用語を言うでもなく、山瀬まみや三田寛子、西村知美のように、不思議ちゃんぶりで笑わせたわけでもなかった。初期には、共演した岡本太郎に対し、

「このおっさん、アブないです」

 と言ってのけるなどの武勇伝も残したものの、毒舌というほどのタイプでもないだろう。ほかに、群馬出身というのも売りだが、上毛カルタや下仁田ネギの話だけで食っていけるほど、芸能界は甘くない。

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宝泉薫

宝泉薫

1964年生まれ。早稲田大学第一文学部除籍後、ミニコミ誌『よい子の歌謡曲』発行人を経て『週刊明星』『宝島30』『テレビブロス』などに執筆する。著書に『平成の死 追悼は生きる糧』『平成「一発屋」見聞録』『文春ムック あのアイドルがなぜヌードに』など

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