さて、自閉症は、ここ数十年の中でも増加してきています。アメリカ疾病予防管理センターによると、2000年に0.67%だった有病率が2014年には1.68%となっています。なぜ増加しているのかについては、診断基準の変化や環境の変化など様々な説がありますが、一定の見解はありません。一方で自閉症の療育を行うことのできるスタッフや施設は十分ではなく、アメリカではセラピストの予約が一杯で長いウェイティングリストができ、日本でも地域によっては療育が定員満了で入れないこともあるようです。

 そこで、近年では新しいテクノロジーを使った療育が研究され始めています。今回アメリカのスタンフォード大学から、最新の研究結果が発表されました。(※2)

 この研究では、2016年から2018年にかけて、6~12歳の自閉症の子ども71人を2グループに分け、一方のグループだけ、通常の療育に加えて、グーグルグラスとスマートフォンのアプリを利用してもらいました。グーグルグラスを子どもが装着すると、相手の表情を認識して、相手がどんな感情を持っているか、8種類の顔の絵文字(嬉しい、悲しい、怒り、恐れ、驚き、嫌悪、無関心、ニュートラル)が表示され、音声でのアナウンスもあります。

 グーグルグラスを装着して、「家族の笑顔をつかまえる」ゲームや、「養育者が演じる感情が何かを当てる」ゲームを、1回20分、週に4回を目標に、6週間にわたって行ってもらったのです。すると6週間後には、社会的に適応した行動をいかにとれるかというテストの点数が、4.58ポイント高くなったことがわかりました。

 欧米では、ここ数年自閉症児に対するグーグルグラスの活用が期待されていました。これまでにも自閉症児とのコミュニケーションをサポートするアプリはありましたが、ウェアラブルデバイスを利用したものは、少なくとも日本にはないようです。この研究で使用されたアプリは、研究者たちが独自に開発したもので、また、グーグルグラスも一般向けには販売されていませんので、残念ながら今すぐ利用することはできないようです。

 グーグルグラスにはいわばおもちゃのような側面があるので、この研究でも子どもたちが次第に飽きてしまい、想定していたほどの時間は使ってもらえなかったというような問題点はあったようです。とはいえ、グーグルグラスを医療分野で使い、一定の効果があがっているというのは、なんだか未来的で興味深いです。今後の研究が実用化につながっていくことを期待したいと思います。

○森田麻里子(もりた・まりこ)/1987年生まれ。東京都出身。医師。2012年東京大学医学部医学科卒業。12年亀田総合病院にて初期研修を経て14年仙台厚生病院麻酔科。16年南相馬市立総合病院麻酔科に勤務。17年3月に第一子を出産。小児睡眠コンサルタント。Child Health Laboratory代表

(※1)Bai D, Yip BHK, Windham GC, Sourander A, Francis R, Yoffe R, et al. Association of Genetic and Environmental Factors With Autism in a 5-Country Cohort. JAMA Psychiatry. 2019.

(※2)Voss C, Schwartz J, Daniels J, Kline A, Haber N, Washington P, et al. Effect of Wearable Digital Intervention for Improving Socialization in Children With Autism Spectrum Disorder: A Randomized Clinical Trial. JAMA Pediatr. 2019.

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森田麻里子

森田麻里子

森田麻里子(もりた・まりこ)/1987年生まれ。東京都出身。医師。2012年東京大学医学部医学科卒業。12年亀田総合病院にて初期研修を経て14年仙台厚生病院麻酔科。16年南相馬市立総合病院麻酔科に勤務。17年3月に第一子を出産し、19年9月より昭和大学病院附属東病院睡眠医療センターにて非常勤勤務。小児睡眠コンサルタント。Child Health Laboratory代表

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