同区間の運賃が14,050円なので、×6615人で9294万750円(普通車指定席で計算)。加えて運休せずとも2時間以上遅延した列車の乗客への特急料金は払い戻される。ピーク時の東海道新幹線は上下線合わせて87本の列車が線路上にあるため、運休した5本を除いても82本。乗車率100%なら10万8486人が乗車している。

 事故時にちょうど目的駅に到着した乗客や、短距離利用客、利用の少ない列車などもあっただろうから、単純計算はできないが、仮に全員が東京~名古屋駅間の「のぞみ」特急券を払い戻したなら、4830円×10万8486人で5億2398万7380円の損害となる。運休5本をあわせて考えるなら、JRは確実に億を超える損害を出していると思われる。

■ホームドアの設置駅では人身事故そのものが減っている

 2018年には年間で1108件の人身事故があった。この中から1月の統計を抜き出すと、ホームドアでは防げない駅間の飛び込みが55件、駅での人身事故が47件だ。駅での事故は42%を占める。事故があった47駅の中で、ホームドアを設置済みの駅だったのは0駅で、明らかに効果があると言えよう(遺族の感情に配慮して具体的な駅名は出さないが、上記の47駅の事故にもホームドア設置予定駅はあり、5カ月後に設置されたケースもある)。

 1108件の人身事故の42%が駅での事故だと仮定した場合、465件が駅での事故なので、それがホームドアで防げたかもしれない人命の数ということになる。鉄道会社が1件あたりの人身事故で損失する金額を1000万円と仮定するなら、46億5360万円の損害やダイヤ乱れによる乗客への迷惑を防げるわけである。長い目で見れば看過できない差異になろう。

 ホームドアの設置は巨額の出費が必要となるが、確実に人命を救う方策である。また、鉄道会社の経営や社員の精神的な健康維持にも明らかにプラスがあるだろう。こうしたホームドアの設置計画だが、2016年では686駅だった設置駅が、2020年末までに882駅に増える。また、設置が確定している駅を含めると2021年以降に995駅になるという。ホームドアメーカーの研究が身を結び、より低コストで設置できる新型ホームドアが各地の鉄道路線に設置されることを願う次第である。(安藤昌季)

○安藤昌季(あんどう・まさき)1973年、東京都台東区生まれ。乗り物ライター兼編集プロダクション「スタジオサウスサンド」代表。「教えてあげる諸葛孔明」(角川ソフィア文庫)や「旅と鉄道」「鉄道ぴあ」など、歴史や乗り物記事の執筆・企画・イベントを多数手がける。