このように各地で導入が進むホームドアだが、その設置効果はどのようなものだろうか。『日刊工業新聞』によると、ホームドアの設置費用は1駅4~5億円だという。東京メトロ全144駅に設置した場合の費用が602億円とのことだから、1駅4.1億円の計算だ。

 ただ、これは目安でしかない。2008年にJR東日本が出した概算では、山手線29駅にホームドアを設置する費用が550億円程度だという。1駅約19億円ということになる。これはホームが古い山手線では、ホームドアを設置するためにホームの強度を強化する必要があるなど、地下鉄にはない苦労があるからだという。国土交通省では4億円の補助金をメーカーに交付し、コスト低減と安全性向上を兼ね備えたホームドア開発を進めており、JR西日本の高槻駅に採用されたロープ式ホーム柵などは、その一つである。

 これほどの費用を投じるのだが、費用対効果はどうだろうか。人命より重いものはないとはいえ、その効果は気になるところだ。鉄道で人身事故が起こったとして、裁判では数百万~1000万円程度(ラッシュ時の方が高い)の損害請求をされるという。車両の修理代や現場の復旧コスト、他の鉄道・バス会社への振り替え輸送費、有料特急が走る路線なら、特急券の払い戻しなどが発生するからだ。

 ただし、1000万円の請求を鉄道会社が裁判で行い勝訴しても、遺族から「高額で支払えない」として「人身事故を起こした故人の財産を相続放棄」することで支払われない可能性もあり、鉄道会社が泣き寝入りするリスクは抱えている。

 そして、実際の損害額は1000万円で収まるだろうか。ピーク時の山手線は大体48編成が本線上を走っている。E235系電車の編成定員は1724人。全線の乗車率を平均130%とするなら2241人。それが48編成だから10万7577人。乗客が平均400円の切符を買っていたら4303万1040円の売り上げとなる。それが他線への振り替え輸送で支払われないとしたら、数百万円~1000万円は、むしろ控えめな請求額かもしれない。

 新幹線ならどうだろうか。2006年10月に東海道新幹線静岡駅で人身事故があった。この事故では2時間16分に渡って上下線が運転を見合わせ、5本が運休となった。運休した5本の列車が仮に乗車率100%で、山陽新幹線を含めた全線で中枢ともいえる東京~新大阪間を利用するとしたら、編成定員が1323人なので、最大6615人の利用者が払い戻しになる。

次のページ
新幹線の人身事故では億単位の損害も?