■オフィスに子ども部屋

 船団丸の始動から9年が経った今、「鮮魚BOX」の契約件数は500件を超えた。そして坪内は現在、高知、北海道、鹿児島のクライアントとともに漁業の六次産業化に携わっており、2018年からはニーズの縮小などの課題を抱える真珠の事業もスタートした。

 あまり知られていないことだが、この成長の過程で、坪内は子育て中の女性、シングルマザーの女性などを積極的に雇用してきた。

 萩市の平屋に構えたギブリの事務所の1室は子ども部屋になっている。ギブリの女性スタッフ6人、それぞれの子ども計8人が遊んだり、休んだりするスペースとして使われていて、子どもたちがここで1日を過ごすこともある。

 オフィスでは、夕方になると誰かひとりが大量の夕飯を作り始める。オフィスで子どもと食べてもいいし、家族分を自宅に持ち帰ってもいい。仕事を終えた後に夕飯の支度をしなくてもいいように生まれたシステムだ。

 誰かが夜に開かれるセミナーに参加したいといえば、別のスタッフが子どもの面倒を見る。仕事が立て込んで残業が必要な日は、子どもも含めてみんなでご飯を食べる。食後には、子どもたちを風呂場に連れて行き、並べて身体と頭を洗う。そうしたら、時間が遅くなっても子どもは帰って寝るだけ。

■自分が社員だったらどうしてほしいか

 新しいというより、どこか懐かしい温かさを感じるこの働き方は、シングルマザーの苦労を知る坪内だからこそのアイデアを取り入れたものである。

「判断の基準は、自分が会社員として働くとして、どういう経営者だったらついていこう、一生懸命働こうと思えるか。自分が社員だったらこうしてほしいということをしているだけなんですよね。一緒に働くんだから、みんなで助け合えばいいじゃないですか。うちは、スタッフが妊娠しようと出産しようと、結婚しようと離婚しようとかまいません。副業もウェルカムだし、月に何割だけとか、単発でお願いする外部のスタッフもいます」

 結果的に、ギブリは合理的かつ人の温もりを感じさせるフレキシブルな職場になった。それと、様々なメディアに取り上げられて有名になった鮮魚販売事業の魅力がかけ合わさって、「採用しなかった年がない」というほど人材を惹きつけるようになったのだ。

 このインタビューは、坪内が真珠の事業で連携している溝の口のジュエリー店で行われた。そこにはジュエリーデザイナーの子どもも、ギブリのスタッフの子どももいた。それが当たり前といった様子で受け答えをしていた彼女は、最後にこう言って笑った。

「私の採用基準は、話していてピンとくるかどうか。学歴なんかあてになりませんから。人間には欠点があって、長所があります。そのなかで同じ一輪の花や、ちょっとした景色を一緒に『きれいだな』って感動できる仲間が好き。その人たちと私は生きていきたいんです」