その頃からだ。どこからとなく「号外が届いた!」という声が聞こえるようになった。すると、数百人の人々が右に左に次々に移動。人々が押し合い、つぶされそうになりながら手を伸ばすが、中心付近までたどり着くと「ここでは号外は配布していません!」という叫び声が聞こえ、群衆が解消されていく。そういったことが2、3度繰り返された。

 群衆が興奮状態になったのも、無理もないかもしれない。号外が届くまでの間に、広場に集まった人たちに話を聞くと「号外をもらいに来た」という声が多かった。

 なかには、「テレビで平成の改元時の映像で、号外の取り合いの風景が流れていたから、それに行きたいと子供にお願いされて」と話す小学生と中学生の子供を連れた母親も。紙メディアの衰退が叫ばれるなか、改元の号外だけはネットではなくリアルに体感したいという人が多かったようだ。

 記者が号外争奪戦のパニックに巻き込まれたのは、そんな群衆の期待がピークに達した時だった。

 最初のパニックが発生した後、さすがに危険を感じた新聞社のスタッフと思われる男性が、「号外がほしい方は、こちらに並んでください!」と指示すると、すみやかに列ができた。

「ようやく日本人らしくなったね」

 などと、記者と隣り合った人が笑いながら話していたのもつかの間、追加の号外が到着。すると、あっという間に列が崩壊し、再び争奪戦のパニックが起きた。

 その後、複数社の号外が届いたことで、次第に争奪戦は解消。無事に号外を入手できた東京都小金井市の角和泉さん(15歳)は、5月1日に始まる「令和時代」に期待することについて、記者に笑顔でこう話した。

「命令や圧力ではなく、自然に『和』ができるような世の中になってほしいですね」

 安倍首相によると、新元号「令和」には、「人々が美しく心を寄せ合う中で文化が生まれ育つ」という意味が込められているという。ただ、その新元号に一抹の不安を感じたのは記者だけだろうか……。

(AERA dot.編集部/竹内良介、西岡千史)