新しい元号「令和(れいわ)」が発表された直後の4月1日正午過ぎ、JRの新橋駅前SL広場で号外が配布されると、待ちわびていた数百人の群衆が一気に殺到した。近くにいた記者が目にしたのは、号外を配布していた女性が、人々に押し潰されている恐ろしい光景だった。
「助けて」
そう叫んだ女性の手には、びりびりに引き裂かれた号外の切れ端が残されている。
「助けなければ」
そう思った瞬間、記者の背後から次々に人が押し寄せ、身動きが取れない状態に。なんとか声を振り絞り、「押さないでください」「人が倒れています」と繰り返したが、一向に騒動が収まる様子はない。それどころか群衆の規模は徐々に巨大化していく。
「本当に危ないかもしれない」
目の前で人の命の危険を感じたのは人生で初めてだった。騒動が収まるきっかけになったのは、ある男性の叫び声だった。
「もう号外はありません!」
「号外はないから下がって」
その声をきっかけに、しばらくすると徐々に人が引きはじめ、群衆は新たな号外を追い求め去っていった。配布係の女性の周りには数部の号外が残されていたが、群衆の外側からは確認できなかったのだろう。女性の足元をみると、両足の靴がなくなっていた。誰かが機転を利かせた声をあげなければ、事態は悪化していたかもしれない。
今から考えると、パニックが起こる前から不穏な空気は流れていた。
記者が現場に到着したのは、午前11時25分ごろ。駅前のSL広場には大型街頭ビジョンがあり、菅義偉官房長官による元号発表の歴史的瞬間を目撃しようと、すでに1000人以上の人が集まっていた。
「思ったより人が多いね」
そんなのんきな話を、同行した記者と話していたときだった。携帯電話に新元号発表のニュースが入ってきた。ところが、新橋駅前の大型街頭ビジョンは画面が黒くなっただけで、会見の様子は映らず。大阪府在住の40代の女性は「道頓堀は盛り上がってるのに」と、残念がった。