だから相手は、ハンサムすぎても残念すぎても説得力がない。内面も重要だ。「101回目のプロポーズ」など屈折した恋愛を描くと天下一品とされる脚本の野島伸司は、内省的で人馴れず、破格の優しさをもつ男というキャラクターにした。

 それが峯田。「プーさん」という呼び名は、常に「くまのプーさん」を想起させる。風間という男は、そういう人ですよーという合図。

 ただただ優しいだけでなく、知性もほしい。性格に深みを与えないと、お嬢さまに影響を与えられない。野島はそう思ったのだろう。初回のシーンで、風間はスマホをいじっていた。将棋アプリで、「勝率100%」とアップになった。

 破格に優しく、知的な男。そういう役割を与えられ、峯田がしばしば見せたのが、当惑したような笑みだった。お嬢さまに振り回されながら、当惑したような笑みを浮かべ、そこから涙をこぼすこともあった。

 その時のポイントが、口元だった。結んだ口。上がった口角。すねたような、困ったような。この表情が、何度となくアップになった。そして、気づいた。あ、アヒル口だ!

 観念的で大げさで、なんでもドロドロに描きすぎるドラマだった。すごく楽しめたかというと、そうでもない。だが「意図」は伝わってきた。華道界と商店街。2人の住む世界を対比し、「芸術とは」「天才とは」と問いかけながら、恋愛の純粋さを浮き彫りにしていく。そんな感じだと思う。

 風間は正解を語るのでなく、存在そのものでみんなを正解へと導いくという役割だ。自ずと「当惑した笑み」が増える。包容力があるぞと訴えるのでなく、さながら「くまのプーさん」のように、茫洋と存在しながら包容力を示していく。

 野島はバッドエンドが得意だそうだが、ハッピーエンドだった。後味よし。

 最終回オンエアの朝、石原と峯田が「スッキリ」(日本テレビ系)に出演し、番宣に励んでいるのを見た。峯田が突然、あの役はカツラで演じていたと告白した。

 実際は坊主頭だそうだ。「なんで、今言うの?」と石原が驚いていたから、発作的な発言だったのだろう。なんか、ロッカーっぽいなーと思い、ちょっと楽しかった。

 ところでコトバンク「アヒル口」だが、後半にこうも書かれていた。

<男性では西島秀俊、松山ケンイチ、福山雅治らもアヒル口だと言われる。>

 えー、そうかなー。この3人よりは、峯田の方がずっとアヒル口だと思う。

 アヒル口の男性についてもっと知りたくて、あれこれネット検索した。ロシアのプーチン大統領がアヒル口だという情報にたどり着いた。

 おー、確かに言えるかも。プーチンさん、かなりのアヒル口だ。

 えっ、プーさん? (矢部万紀子

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矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

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