それは「巷」を観察し、子供の頃から、「声のいい人には魅力があって、人が寄ってくる」ことに気づいて自分の声を磨いてきた、教養高き人々のなりゆきだからである。

「声」にまで意識が届いている人は、本来の意味で「頭がいい」。そこまで気を配れるのだから、体力・メンタルも当然強い。気持ちに余裕がある。実際、スポーツ選手も、引退後にテレビのコメンテーターに転職できる人は、声がいいことに気づくだろう。しゃべりがうまいだけでなく声までよいのだから、配慮がバランスよくゆき届いているのである。これぞ、「声は人なり」といわれるゆえんである。

■口輪筋を鍛えよう

 それは若い人に限ったことではない。より問題なのが、「声帯の退化」である。

 仕事をしている時は、普通にしゃべっていた。声帯も適度に使われていた。しかし、定年になったとたん、誰とも口を利かなくなる。一日中、テレビの前に座って、一言も言葉を発さない生活になる人さえいる。

 そうして、声帯が退化する。口の周りの筋肉(口輪筋)を使わないので、顔の下半分が萎んでしまう。顔に力感がなくなってしまう。やがて、蚊の鳴くような声になる。

 意識して、声を出さない限り、自分が思っているより声は老けていく。要注意だ。

 この傾向は女性に顕著である。また、閉経後はホルモンバランスの変化も加わり、女性らしい高音の声が失われる。とりわけ、高齢の女性の声は中性化しやすい。男性の声と判別しにくくなるのは、よく知られていることである。

 人間は老化する。それは防げない。だから、多くの人は、なにがしかの運動をして、筋肉の劣化を防ごうと努力する。だが、声帯、口輪筋のトレーニングにまで気持ちの及ぶは、まだまだ少ない。

 身体全体の見た目を若々しく見せたいのなら、まず顔の見た目の方がよほど大切である。人がもっとも注視するのは顔なのだから。声を鍛えれば、自然に顔は若くなる。

 基本的には、拙著でも紹介している朗読を勧めたいが、手軽さを求めるならカラオケを推奨したい。最近は「ヒトカラ」といって、一人で行けるカラオケもある。声を出すのは、気持ちがいい。ストレスの解消にもよい。全身の筋肉と一緒に、“声周辺”の筋肉も鍛えることに、ちょっとだけでも心を配ればいいだけだ。

 よい声を出せば、よい毎日は付いてくる。(竹内一郎)