「当時は、いまはもうない横浜ドリームランドの真横の団地の8階に住んでいました。そして2階にT先輩という、1つ年上の頭はいいけれど引きこもっている変わり者の人がいてね。一日中、大音量で音楽を聴いているんです。部屋にはレコード棚があって、ハードロックからモータウンまでなんでもそろっているの。日本人はなぜかジュリーだけ好き。「追憶」とか「時の過ぎ行くままに」とか。その部屋に行って僕はいろいろな音楽を勝手にダビングしていました。その中に『GOING TO A GO-GO』もあってね。グッときました。T先輩は早熟だから、オーティス・レディングとかウィルソン・ピケットとか、中学生とは思えないレコードをたくさん持っていてね。知識もすごい。あの部屋で勝手にダビングさせてもらって聴いた音楽が今の僕の血となり肉となっています」

 サウンドから景色が見える大切さについては、小学生のころから意識していたという。

「映画のサウンドトラックが好きだったんです。当時、伊勢佐木町に映画のパンフレットを売る店がありましてね。サントラも置いてあった。その店で僕はパンフレットを買って、サントラも買う。でも、肝心の映画は観ていない。DVDもビデオもない時代だから、すぐには観られない。フランシス・レイの『男と女』やミシェル・ルグランの『シェルブールの雨傘』やバート・バカラックの『明日に向かって撃て!』のサントラを聴いて、パンフレットの写真を眺めて物語を想像するのが僕の楽しみ。日本の曲でも、ユーミンの『中央フリーウェイ』は風景が見えるでしょ? 運転免許取ってから、実際に中央高速を走ってみたんです。すると、競馬場があって、ビール工場があって、あの歌から頭の中にイメージした通りの景色だった。感激しました。その逆パターンで、音楽が実際の歌詞の舞台よりも素晴らしい風景を見させてくれることもあります。山下達郎さんの『さよなら夏の日』というバラードを聴くと、僕、湘南のきらきらした海を思い出しちゃう。でも、あの曲、としまえんのプールの思い出からつくったそうです。ご本人がインタビューで答えていました。としまえんのプールって、夏はめちゃ混みでごった返しているイメージですよね。『さよなら夏の日』は、音楽が実際を越えている見事なケースです。達郎さんがとしまえんで泳ぐ姿はとても想像がつきませんが、とにかく、いい音楽はシーンや物語と直結しています」

 CKBは8月25日から全国ツアー「GOING TO A GO-GO」をスタート。9月24日には横浜アリーナで「クレイジーケンバンド結成20周年記念スペシャルライヴ」も開催する。

「『GOING TO A GO-GO』はもちろん、皆さんご存知の代表曲もやります。豪華なゲストも予定しています。横浜アリーナは1万人以上入るので、濃いファンのかたも、濃くないリスナーのかたもいらっしゃる。どちらも楽しめるライヴにします」

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神舘和典

神舘和典

1962年東京生まれ。音楽ライター。ジャズ、ロック、Jポップからクラシックまでクラシックまで膨大な数のアーティストをインタビューしてきた。『新書で入門ジャズの鉄板50枚+α』『音楽ライターが、書けなかった話』(以上新潮新書)『25人の偉大なるジャズメンが語る名盤・名言・名演奏』(幻冬舎新書)など著書多数。「文春トークライヴ」(文藝春秋)をはじめ音楽イベントのMCも行う。

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