たしかにアンケート結果では、7割の人が「主伐を実施する予定はない」と回答している。ところが、その後の項目では、この回答をした人に、「主伐を実施しない理由」について複数回答可で再質問している。その結果は、「主伐を行わず、間伐を繰り返す予定であるため」との回答が58%で最も高かったのだ。林野庁の資料では、この回答がまったく無視されていた。

 アンケートの結果を見たある林業者は、こう話す。

「品質の良い木材にするには50年では若い。あと20~30年程度必要で、しかも最近は木材価格が安い。主伐を控えるのは当然の経営判断で、林野庁がなぜ『主伐の意向すらない』と言い切るのか、理解できない」

 これには自民党の議員も「林野庁は良質な木材を育てようとしている人を『意欲がない』と決めつけている」と、不信感を募らせている。

 こういった指摘が相次いだことで、林野庁は対応を余儀なくされた。データの引用が不適切であったことを認め、4月19日には新たな資料を作成した(写真参照)。そこでは「経営意欲が低い」が「経営規模を拡大する意欲が低い」に、「主伐の意向すらない」が「今後5年間の主伐の予定はない」に改められている。

 林野庁の担当者は「さまざまな方から批判があり、林野庁がよからぬことを考えていると誤解を受けたため、資料の文言を正確な表現に修正した」と説明する。

 それでは、なぜ林野庁はアンケートの回答結果を誤用してまで、このような資料を作成しなければならなかったのか。林業政策に詳しい泉英二愛媛大名誉教授は、こう分析する。

「この法案の根本には、森林所有者は、林業経営をする意欲がない人たちと規定していることがある。一方で、森林所有者には伐採と、その後の造林の実施に責任を持つよう定めている。できない場合は市町村に委託させる内容になっているが、委託に同意しない所有者に対しては、市町村が勧告や意見書提出などのプロセスを経れば『同意したもの』とみなし、木を伐採してもいいことになっている。非常に強権的な内容で、憲法が保障する財産権を侵害している可能性が高い」

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市町村に憲法違反になりかねない巨大な権限を付与