そしてもちろん、あらためて紹介するまでもなく、ジャマイカの音楽、レゲエは初期の段階からスティングにとってきわめて大きな意味を持つものであった。少年時代から、ジャマイカの文化を英国に混在する重要な文化の一つと感じていたという彼は、とりわけレゲエからは強い刺激を受け、ロックンロールの価値観を根底から覆された、とも感じたそうだ。「孤独のメッセージ」や「ロクサーヌ」など代表曲の多くは、レゲエを意識したベース・ラインをもとに生まれたものだとも語る。歌を通じてユニヴァーサルな愛、ワンネス、ユニティの大切さを力強く訴えつづけたボブ・マーリーからの影響はあらためて指摘するまでもないだろう。

 昨年の前半、おそらく『ニューヨーク9番街57丁目』ツアーがスタートしたばかりのころ、そのキーゼンバウムを通じて、シャギーが制作を進めていた曲のデモ・ヴァージョンが届けられた。タイトルは「ドント・メイク・ミー・ウェイト」。なんらかの形でのコラボレーションを想定して、というか期待してのことだった思うが、それを聴いたスティングは「とてもキャッチー」と感じ、ヴォーカルなどでの協力を快諾。初セッションの日、サビを歌いながらスタジオに入ってきた世界的大物アーティストを目にして、シャギーは驚いたという。そりゃ、そうだろう。

 しかし、それだけでは終わらず、あまりにも気に入ってしまったスティングは「もう少し関わらせてもらえないかな」と提案。歌詞も書き加え、そして、長年にわたる彼の音楽的パートナー、ドミニク・ミラーのあの特徴的なギターも加えて、スティング&シャギー版「ドント・メイク・ミー・ウェイト」を完成させたのだった。

 充実した内容のシングルを仕上げたあと、スティングはツアーに戻り、しばし空白期間があるのだが、この間に二人はそれぞれ「ドント・メイク・ミー・ウェイト」で得た手応えをさらに深く認識するようになったという。また、レゲエ、ボブ・マーリーへの敬愛の念、アメリカへの夢と憧れなど、多くの共通点があることに気づいた。まったく異質な二つの声が驚くほど自然に溶けあったことも、彼らの気持ちを強く衝き動かしたようだ。

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