日本銀行本店で、金融政策決定会合に臨む黒田日銀総裁ら (c)朝日新聞社
日本銀行本店で、金融政策決定会合に臨む黒田日銀総裁ら (c)朝日新聞社

 日本銀行の総裁の任期である2018年4月まで、2カ月を切った。メディア上では次期総裁候補や、今後の経済政策の行方についての議論が飛び交っている。黒田総裁の続投を有力視する報道もある。

 普段の生活のなかで、「日銀がどのような組織なのか」「日銀総裁がどのような仕事をしているのか」を意識する機会は少ないだろう。なかなか縁遠い存在だが、日銀総裁といえども私たちと同じ人間だ。

「実は、その人間的なキャラクターが、ときに金融政策に色濃く反映されているんです」

 そう指摘するのは、『日銀と政治 暗闘の20年史』の著者・鯨岡仁氏だ。朝日新聞で15年間、政治部、経済部、日銀担当の記者として、日銀と政治の動向に密着した取材を行ってきた専門家だ。鯨岡記者に話を伺った。

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■日銀出身か、財務省出身か

 そもそも日銀の総裁になるのは、どのような人たちなのだろう。

「日銀総裁は古くから、大蔵省(現・財務省)と日銀出身者が順番に就任する、いわゆる『たすき掛け人事』が行われてきました。前者と後者とではタイプが違います。大蔵省の出身者の印象は"ミニ政治家"と言いますか、世慣れた人が多いように思えます」

 政治家たちが自分たちの予算を通そうと手練手管を駆使して接触する中、うまく折衝をしなければならないので、自然と交渉術に長けてくる。一方、日銀出身者は、まじめな学者肌の人が多い。

「若手の日銀職員は政治家との付き合いが少なく、幹部になって急に接しなければならなくなります。そのため、生命力がタフな政治家に面食らう人も多いようです」

 なお、1998年に日銀法が改正され、日銀の「独立性」が高まってからは、4人中3人が日銀出身者だ。

 財務省出身か、日銀出身か。それだけでも大きな違いはあるようだが、長年の取材の中で鯨岡氏が見聞きした歴代の総裁たちの横顔は次のようなものだ。

■高度成長期を生きた敬虔なクリスチャン――速水優

 まず、1998年に日銀総裁に就任した速水優氏。世界で初となる「ゼロ金利」を導入した人物だ。

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