白川氏の優秀さは折り紙付きで、日銀への入行後、シカゴ大学に留学して修士号を取得したさいには、師事した教授から『あと半年いれば博士号をとれる』と言われたという。2年で戻らなければならないという日銀の規定によって、泣く泣く帰国したというエピソードがある。

「とても誠実で純粋な方で、徹底した学者肌。彼にとっては、世慣れた政治家たちはまるで自分とは別の生き物のようだったのではないでしょうか」

 白川氏は政治と妥協することなく、自分の主張を貫いた。しかし、2008年のリーマン・ショック後も自説にこだわり、その結果、日米の金利逆転を引き起こし、空前の円高の原因をつくったとも言われている。

■バランスのとれた「通貨マフィア」――黒田東彦

 1998年の日銀法が改正後、初めて財務省出身で総裁となったのが、現在の日銀総裁黒田東彦氏だ。アベノミクスの2%のインフレターゲットを実現するため、「異次元の金融緩和」政策をとるなど、積極的な金融政策で知られている。

「黒田さんは『神童』と呼ばれた優秀な人。本の虫で、経済や金融だけでなく、社会学、哲学、小説など、あらゆる本を読んでいます。その知識は学者級で、黒田さんに仕事で何かを質問すると、分厚いレポートになって返ってくるそうです」

 部下からの信頼も厚い。「若手の日銀職員に聞くと、黒田さんの元では働きやすいと言います。その理由は、考え方が対立していたとしても、意見を聞いてくれるから」

 財務省時代は国際局で国際金融を担当していたが、一時期は政治家との付き合いも多い主税局にも在籍していた。英語はネイティブ並みで、国際金融と国内政治の両方に精通するバランスのとれた人物だ。

「通貨マフィア」ともよばれる財務官を経験し、アジア開発銀行の総裁も務めた黒田氏。就任以前から安倍晋三首相にその手腕を期待されていたようだ。

 学者タイプから経営者タイプまで、日銀総裁といっても、いろいろな性格の人物がいる。2018年4月の日銀人事では、黒田氏の「続投」説も有力なようだが、もし交代となるなら、次の総裁はいったいどのような人物で、どのような政策を行うのか、興味深いところだ。

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