具合が悪いなと思って、インフルエンザウイルスが蔓延している病院に行くと、実はかかっていなかったのに病院で感染してしまうこともある。「受診」よりも、まずは「休養」こそが大事だと坂根さんは訴えるが、現実はそうはいかない。

「日本の社会は、少々具合が悪くても、つらい症状を押して出勤しなければならないケースが非常に多いですよね。働き方改革が叫ばれていますが、まだまだその点は改善されていません。インフルエンザと診断が確定すれば出社停止になるので、その診断がほしくて受診を急ぐところもあるのかもしれませんが、インフルエンザの予防で何よりも大事なのは、『あれ、変だな』という症状が出たときに、まず早めの休養を取ること。ところが、大抵の人は、症状が出ていても休むことはできない。風邪薬を飲んで頑張ってしまう。そうなると、その間に軽症者がかえってどんどんウイルスを広めてしまうことになりますし、軽症であった人も症状は悪化する。本当に蔓延を予防するならば、会社も学校もこうした態勢を根本から見直して『軽いうちに早めの休養を』といったほうがいいと思います」

 医療者の観点から見ても、軽症なインフルエンザ患者が病院にあふれるのは問題だともいう。

「インフルエンザは基本的に『寝ていれば治る病気』です。かかったとしても、息が苦しいとか、意識がおかしいとかでない限りは、寝て休養を取っていれば、自分の免疫力で治せます。それなのに、今のように、うつりやすい感染疾患の軽症者がどっと医療機関に押し寄せたら、そのほかの患者さんだけでなく医療従事者にも感染して、満足な治療ができない事態になってしまいます。時間も人手もその人たちに取られて、重症者への対応が遅れてしまいますし、自己免疫疾患やがんの患者さんなど、最もインフルエンザ感染を避けなければいけない人たちが、感染の危険にさらされてしまうのです。感染を広めないためにも、軽症であれば家でゆっくり休んで治すことが望ましい。『受診しなくてもいい』という選択肢があることを知って、患者側も賢く自立することが必要です」

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