ホールをまとめるベテランのパート女性は「女将」と呼ばれる。お客に接するほとんどの場面を取り仕切るほか、主婦のパートや高校生もいるホール劇団員の教育、訓練も担う。中には板前より人気のある名物女将もいるという。各店の女将を集めた研修を時折実施するが、そこでは銚子丸の経営理念などを伝えるほか、すしをふるまっている。「職人経験のある常務や営業部長といった幹部がにぎり、女将たちをもてなします」(石田氏)。これにはその時々のおすすめネタを女将たちに体験してもらう狙いもある。実際食べたことのあるネタなら、お客への勧め方も違ってくるというわけだ。

 都心よりは郊外、幹線道路沿いはあえて避けて、そこから一本入ったような立地に比較的ゆったりとした店舗を構える。レーン内側の調理スペースに4、5人のすし職人が立つイメージだ。「自転車や徒歩でも来られるような3キロ商圏に注目しています」(石田氏)。地元密着な店を作り、そこでお客の感動を呼ぶようなすしネタと、活気のある接客サービスを提供するというのが、これまでの成功パターンだった。

 ところが近年、こうした成功パターンの拡大再生産が困難になってきている。2017年5月からの1年間で、当初は新規出店を3店見込んでいたが、これを1店に修正。ここ数年、出店ペースが落ちているという。新規出店の大きなネックとなっているのが、すし職人となる正社員の採用難だ。「理想的な年間5店の新規出店を実現するには、毎年30人の新卒採用が必要。ところがここ2年は年数人しか採用できていません」(石田氏)。すし店での勤務経験者を求めたい中途採用は、更に厳しい状況だという。

 去年11月から本格的になった銚子丸の「働き方改革」は、新規出店のネックとなる採用難への対応という側面もある。石田氏は「先代の創業社長が一代で築いた会社ということもあり、残業も厭わず頑張って働く人を評価してきました」と、同社の社風を説明する。だがそうした傾向が行き過ぎることが、採用難や定着率の低下につながっているのではないかと話す。

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シフトどおりに働いてもらうことを徹底した結果…