指摘した問題点に部下が納得できたら「振り返り支援」のステップに進み、一緒に立て直し策を考える。ここでのおすすめフレーズは、「どうすれば◯◯せずに済むだろう?」だ。一方的に立て直し策を押し付けるのではなく、最終的に何をするかは必ず部下に選ばせるようにする。立て直し策づくりは、(1)過去と現在を振り返る。(2)何が良くて悪かったのか考えさせる。(3)どう行動を変えるのか考えさせる。という手順で進めていく。

 出来あがった立て直し策が具体的かどうか、チェックするのに活用できるのが、合言葉「SMART」だ。S(スペシフィック、目標は具体的か?)、M(メジャラブル、数字で示せるか?)、A(アチーバブル、達成できる目標か?)、R(リアリスティック、現実的か?)T(タイム、期限内にできるか?)の頭文字を並べたもので、部下が考えた立て直し策が、これらの要素を満たしているかを確認する。最後は「期待通知」のステップだ。今後も期待していること、自分もサポートすることを伝える。部下の「やればできる」という気持ちを高めてフィードバックは終了となる。

 全体で気をつけたいNGフレーズが、「でも、よくやっていると思うよ、君も」だ。厳しいフィードバックに落ち込んだ部下を見ると、ついかわいそうになってフォローのほめ言葉をかけたくなる。だが、これが弊害を生んでしまう。

 耳の痛いネガティブなフィードバックを-(マイナス)、ポジティブなフィードバックを+(プラス)として、ネガティブフィードバックを1回した後、フォローのためポジティブフィードバックを3回したとしよう。上司は確かにネガティブなフィードバックをしているが、その場のフィードバック総量という意味では、-1つに+3つで、合計は+2になる。これだと部下は、ほめられたことしか覚えていないということが起こり得る。こうした傾向は中原氏がフィードバックした人と受けた人、双方にインタビューして見いだしたという。フィードバックの場で無駄にほめてしまうことは、百害あって一利なし、なのだ。

 フィードバックで決めたことを絵に描いたモチにしないため、事後のフォローも大切だ。中原氏はできれば週1回、最低でも隔週1回、決めたことが実行できているかチェックする面談の機会を設けるべきだと説く。「行動の改善が見られなければ再びフィードバックの場を設定します。最初から何度もするものだと心得ておきましょう」

 困った年上部下や今どきの若手に耳の痛いことも伝え、仕事を立て直すフィードバックを中原氏は「武道の型のようなもの」と表現する。部下の指導や育成に行き詰り、上司として「カタナシ」になってしまっているのなら、一度、型にはまってみることをお勧めしたい。(五嶋正風)