また、政府の審議会は官僚がお膳立てし、彼らの作ったスキームに「専門家のお墨付き」を与えるだけのものです。ところが、多くの教授、院長は審議会の委員になりたがります。都内の有名な研究所の所長を務める先輩医師に、「どうして研究所の業務に専念せず、学会の会長や審議会の委員の仕事を引き受けるのですか」と聞いたことがあります。彼の答えは「会長を辞めたり、審議会の委員を辞めたりすると、皆からおいていかれそうで怖い」とのことでした。おそらく本音でしょう。

 この研究所は、日本を代表する優秀な研究者を揃えていますが、ずば抜けた成果が出ているかと言えば、そうでもありません。トップの姿勢によるところが大きいのでしょう。この医師は、リーダーの仕事を放棄しており、その自覚もありません。

病院の資金力」は「リーダーの実力」以上に重要です。

 世間では「利益を上げている病院は患者の治療よりも金儲けに熱心で、患者本位ではない」と思われがちですが、全くの見当違いです。開業医のように医師が一人で経営できる施設は別として、ある程度の規模の病院になると、医師、看護師、薬剤師などの専門スタッフに加え、多数の事務職員も勤務します。不正に利益を上げることは困難で、必ず不正は露見し、内部から告発されます。スタッフの技量向上や医療機器に投資しなければ治療成績は向上せず、最悪の場合、医療事故を起こします。病院の評判は落ち、刑事事件、民事訴訟に発展する可能性すらあります。つまり、高収益を誇る病院は多くの患者が受診し、きちんと治療していると考えるべきです。

※『病院は東京から破綻する』から抜粋

著者プロフィールを見る
上昌広

上昌広

上昌広(かみ・まさひろ)/1968年生まれ。特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所理事長。医師。東京大学医学部卒。虎の門病院や国立がんセンター中央病院で臨床研究に従事。2005年東京大学医科学研究所で探索医療ヒューマンネットワークシステムを主宰。16年から現職。著書に病院は東京から破綻する(朝日新聞出版)など

上昌広の記事一覧はこちら