苦境に立つ錦織は現状打破できるか?(写真:getty Images)
苦境に立つ錦織は現状打破できるか?(写真:getty Images)

 先日のロジャーズ・カップでの対ガエル・モンフィス戦を見ながら、昨年3月のマイアミ・オープンで、錦織圭がやはりモンフィスとの死闘を制した後に残した言葉を、ふと思い出した。

「イーブン(五分のスコア)になった時のことを考えて、気持ち的に準備しておかなくてはと思っていた」

 この試合での錦織は、第3セットで先にブレークし、その後もブレークのチャンスを掴みながらも、取り切れぬもどかしい戦いを強いられた。実際にこの後、窮地を脱して勢いに乗るモンフィスに追い上げられ、3連続マッチポイントを握られる絶体絶命の危機にも瀕している。しかし、その窮状の中で錦織が考えていたことというのが、前述の言葉だった。

 好機を逃して落胆するのではなく、相手の逆襲を予測し、それに備え思考を整理し、心を整える――。

 結果、この試合での錦織は5本のマッチポイントを凌ぎ、薄氷の勝利をもぎとったのだった。

 それから、約1年半……。第2セットで5-2のリードから追い上げられた時、あるいはファイナルセットでブレーク先行しながら追いつかれた時、そしてタイブレークで6-2と4連続マッチポイントを握りながら猛追を許した時にも、錦織が昨年のモンフィス戦後に残した言葉が思い出された。

 だが、この日の試合では、いずれの局面でも最終的に逆転を許す。特に最終セットのタイブレークでは、ダブルフォールトを機に、試合の流れと自信を手放してしまった。剣が峰で脅威の守備を見せたモンフィスの集中力は凄まじかったが、錦織が決めるべきポイントを決めきれなかった感も強い。1年前のリオ五輪での対戦時にも、やはりマッチポイントを凌いで勝利した姿と対照的な今回の敗戦は、錦織が今置かれた状況を、克明に浮かび上がらせるようだった。

「大切なポイントを、どう取りきるか」

 これは錦織が、昨年末あたりから頻繁に口にしている課題である。

「メンタルの問題だと思う」

 そうも彼は繰り返してきた。そもそも錦織は、ツアー内でも“勝負強い”“逆境でこそ力を発揮する”との評価を得てきた選手である。それは単なる印象ではなく、ブレークポイント阻止率や最終セット獲得率等から算出する“プレッシャーに強い選手指数”で昨年度は4位、キャリア通算でも現役選手中5位であることからも明らかだ。

 ところがその順位が、この1年間(52週)に限ってみると、18位にまで落ちている。錦織が最近覚えている「大切なポイント」を取りきれないという感覚は、数字が示す現実でもあるようだ。

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