8回を終わって13対10で早稲田実がリード。主役の一発も飛び出して勝負あったかと思われたが、この試合はまだクライマックスを残していた。9回表、日大三は先頭打者の櫻井が初球を振り抜いてライトスタンドへソロホームランを放ち、まず2点差に迫る。その後も打線が繋がり満塁のチャンスを作ると、8番八木達也のタイムリーとワイルドピッチであっという間に同点に追いつき、代打溝口耕平の犠牲フライで勝ち越しに成功。

 その後も代打の大塚晃平にもツーランが飛び出すなど一挙7点を奪う猛攻で逆に早稲田実を追いつめる。しかしその裏、8回途中から登板した金成麗生の制球が定まらない。先頭打者を歩かせて続く打者にもワンボールとなったところで二番手に登板した八木を再びマウンドへ送るが、悪い流れを断ち切ることはできずに2番雪山にタイムリーを浴びて3点差。そして続く清宮が4球目の外の変化球を叩くと、打球はセンター左への同点スリーランとなり球場のボルテージは最高潮に達した。

 試合はそのまま延長戦に突入し、12回裏に早稲田実が1番野田優人のタイムリーでサヨナラ勝ち。試合時間4時間02分、両チーム合わせて36安打、7本塁打という歴史に残る打ち合いを制した。

 清宮は第四打席までノーヒット。第四打席では公式戦では昨年秋の都大会決勝以来となる三振も喫するなど完全に沈黙していたが、その後の二打席連発で改めて凄さを見せつけることとなった。それまでフライを打ち上げていた外寄り高めのストレートを叩いたもの。打った瞬間にそれと分かる当たりで、ボールはライト上段まで到達した。そして9回裏の同点弾は外角から入ってくる変化球に対して体を残して対応し、おっつけるようにしてセンター左へ運んだもの。ライト方向への打球が多い清宮にしては珍しい左方向へのホームランだった。一本目はパワー、二本目は技術で打ったものと言える。これだけの大観衆と高い注目を集める中で、試合終盤の大事な場面でホームランという最高の結果を残すことができるのはやはり並みの選手ではない。

 清宮と同じく二本のホームランを放った野村のバッティングも素晴らしかった。センバツではアウトステップが目立ち強く踏み込むことができていなかったが、この試合ではしっかりと修正。特に二本目は内角のボールに対して肘をたたんで対応したもので、持ち味である右手の強烈な押し込みを見せつけたものだった。

 日大三で目立ったのは櫻井のバッティングだ。下半身が安定しており、スイングのぶれが少なくヘッドの走りも申し分ない。秋の都大会決勝とセンバツのピッチングで投手として評価する声が高くなっているが、三拍子揃った外野手としても高い能力を持っていることは間違いないだろう。主砲の金成は腕力に頼ったスイングが目立ち打つ方では良いところがなかったが、投手として最速148kmをマークして大観衆の度肝を抜いた。バッティングと同様まだまだ粗くコントロールや変化球など課題は山積みだが、上手く角がとれてくれば超大型サウスポーとして大成することも十分に考えられる。今後はそのピッチングにも注目だ。

 前回の記事では早稲田実の劇的な勝利が多いことに触れたが、この決勝戦の展開は予想を遥かに上回るものだった。しかし甲子園に直結しない春季大会ということもあって、日大三はエースの櫻井を最後まで温存しており、まだ全てを出し切った結果ではない。秋に続く劇的な敗戦により、日大三の早稲田実への対抗心は更に燃え上がったことだろう。

 清宮が迎える高校野球生活最後の夏。果たしてそこにはどんな展開が待っているのだろうか。(文・西尾典文)

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西尾典文

西尾典文

西尾典文/1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究し、在学中から専門誌に寄稿を開始。修了後も主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間400試合以上を現場で取材し、AERA dot.、デイリー新潮、FRIDAYデジタル、スポーツナビ、BASEBALL KING、THE DIGEST、REAL SPORTSなどに記事を寄稿中。2017年からはスカイAのドラフト中継でも解説を務めている。ドラフト情報を発信する「プロアマ野球研究所(PABBlab)」でも毎日記事を配信中。

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